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【春日武彦×末井昭の連載／猫と母】夫婦喧嘩も猫で解決!? 不妊治療、離婚騒動、猫のお産…

2021.01.15 14:00

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　冬のよく晴れた暖かい日に、〈ねず美〉を初めて外に出しました。

〈ねず美〉をケージに入れて、庭で日向ぼっこをさせていると、〈黒ほっか〉が現れました。その頃、庭によく来ていたオスの野良猫です。黒いほっかむりをしたようなハチワレの猫で、美子ちゃんが〈黒ほっか〉と名付けていました。

　その〈黒ほっか〉が、いつの間にか〈ねず美〉のいるケージの横に座っているのです。その様子を見ながら、「外は楽しいぞって、ねず美ちゃんを誘っているんじゃないかな」と美子ちゃんが言います。〈ねず美〉も〈黒ほっか〉に興味を持った様子で、ケージの中でジッと見つめています。「裏には原っぱもあるぞ。草や花が生えていて、いろんな虫がいるぞって言ってるんじゃない？」と、美子ちゃんが妙に具体的なことを言います。本当は、その原っぱで思いっきり遊ばせてあげたいと思っているのではないかと思います。〈ねず美〉が外に出るようになるのも時間の問題でした。

　そういえば〈キューちゃん〉はどうしたのかということですけど、うっかり忘れていました。

〈キューちゃん〉も時々来ていましたが、〈ねず美〉が来てからは敵意を剥き出しにして、ガラス戸越しに〈ねず美〉に飛びかかったりしていました。別宅が〈ねず美〉に奪われたと思ったのでしょうか。それに対して、〈ねず美〉も同じように〈キューちゃん〉に飛びかかろうとします。体が〈キューちゃん〉の３分の１ぐらいなのに、闘争心はさすが野良の子です。

　それともう１匹、庭によく来る〈顔デカ〉と呼んでいる猫もいました。顔のデカいオス猫で、〈黒ほっか〉と庭で睨み合ったりしていましたが、唸り合いをするだけで取っ組み合いの喧嘩はしません。喧嘩になる前に〈黒ほっか〉が引き下がっていました。〈黒ほっか〉は優しい猫のようです。

　自分の縄張りを取り戻そうとする〈キューちゃん〉、〈ねず美〉に取り入ろうとする〈黒ほっか〉と〈顔デカ〉、その３匹が入り乱れて我が家の庭は騒々しくなりました。

　話は変わりますが、ぼくは夫婦喧嘩が苦手です。

　ぼくが子どもの頃、両親が毎日のように喧嘩をしていた時期があります。母親が浮気相手の男を家に入れていたからです。

　母親は肺結核を患い、結核療養棟がある和気町（岡山県和気郡）の平病院に数年入院していましたが、治らないところまで来たので、ぼくが小学校に入学する少し前に家に帰って来ました。

　父親は鉱山で働いていたので、昼間は家にいません。その間に浮気相手が出入りするようになり、そのたびにぼくは家から出されていました（弟は小さかったから、愛人とオッパイの奪い合いをしていたみたいです）。

　狭い村のことですから噂はすぐに広がり、当然父親も知ることになり、夫婦喧嘩が絶えなくなりました。父親は短気で、母親は気が強かったので、喧嘩はいつもエスカレートして、お互い物を投げつけたり、父親が母親を蹴ったり殴ったりするようになり、ぼくと弟は布団を被って耳を塞いでいました。

　ある日、父親が母親に大きな火鉢を投げつける大喧嘩があり、その火鉢をかわした母親は、着の身着のままで飛び出して行き、そのまま帰って来ませんでした。その８日後、浮気相手の男と母親の判別できないようになった死体が、山の中で発見されました。２人が抱き合った状態で、ダイナマイトを爆発させたらしいということでした。母親は30歳、相手の男は確か22歳だったと思います。昭和30年12月19日のことです。

　ダイナマイトは父親が働いていた鉱山で当時使っていたもので、管理もずさんだったようなので、手に入れようと思えば割と簡単に手に入るものでした。家にも父親が持ち帰ったダイナマイトが１箱ありました。畑の中にある岩を爆破したり、川に投げ込んで爆発させて魚を獲ったり、時には喧嘩で相手を威圧するために使ったりしていました。そのダイナマイトを使ったのではないかということでした。