【春日武彦×末井昭の連載/猫と母】夫婦喧嘩も猫で解決!? 不妊治療、離婚騒動、猫のお産…

 のちのち春日先生にいろいろ聞いてみたいのですが、この母親の心中事件は、ぼくの人格形成に大きな影響を及ぼしていると思います。夫婦喧嘩が苦手というのも、両親の喧嘩を恐がっていたからではないかと思っています(夫婦喧嘩だけじゃなくて、喧嘩そのものが嫌いです)。

 最近では、夫婦喧嘩もコミュニケーションの一手段だと思うようになったのですが、昔は喧嘩になるとすぐ心のシャッターを降ろしていました。そうすると相手はさらにイライラするということはまったく考えず、キレそうになると自室にこもるか、外に飛び出していました。

 それに比べて、美子ちゃんは夫婦喧嘩が得意というのはヘンですけど、なんとも思わないようなところがあり、イライラを我慢するということもしません。時には、ぼくが人格崩壊を起こしそうなことまで言うのでキレて、物をぶつけたりテーブルをひっくり返したりすることもありました。

「離婚する!」と叫んで家を飛び出した時は、このまま帰らないでホームレスになったら、どうして暮らそうかと思ったこともあります。そういう時、夫婦喧嘩で家を飛び出し、そのままあの世に行ってしまった母親のことが頭をよぎり、自分の気持ちを制御できない母親の性格と、ヒステリックに母親を殴る父親の性格も自分は引き継いでいると思って、自己嫌悪に陥っていました。

 ところが、〈ねず美〉が来てから喧嘩が減ったのです。美子ちゃんは、ぼくに言いにくいことを、まず〈ねず美〉に優しく言うようになりました。そのワンクッションが入ることで、喧嘩になる回数がかなり減ったと思います。

 夫婦喧嘩をしていると、家の中を走り回っていた〈ねず美〉が、障子の桟に引っかかってもがいていたことがあります。それを見た美子ちゃんが「バカ……」と呟いて、笑顔が戻ることもありました。

 朝、喧嘩をして、そのまま逃げるように会社に行ったあと、ひとりで泣いている美子ちゃんのそばで、〈ねず美〉が心配そうに寄り添っていたこともあったそうです。それを聞いて、自分はなんでそう出来ないんだろうと、〈ねず美〉に嫉妬しました。〈ねず美〉から学んだことはたくさんあります。

〈ねず美〉は、我が家に来て1年後に初めて子どもを産みました。それまでも〈顔デカ〉や〈黒ほっか〉が〈ねず美〉を誘いに来ていましたが、外に出さないようにしていました。発情して「おらび声」を上げるようになった時もありましたが、ぼくの仕事部屋に閉じ込めたり、オムツを穿かせたりして、発情期が終わるのを待ちました。

 そのうち、部屋に閉じ込めておくのも可哀想だということになり、外に出すと〈顔デカ〉とどこかに行って、なかなか帰ってこないこともありました。美子ちゃんは〈ねず美〉に子どもを産ませてあげたいと思うようになっていたのでした。

人目を気にしながらも〈ねず美〉に乗っかる〈顔デカ〉(写真:神藏美子)

 最初のお産で生まれた子どもはキジ柄の2匹でした。1匹は尻尾の立派なオスで、それ以外にこれといった特徴がない平凡な猫だったので、〈ボン〉と呼んでいました。もう1匹は足の先が白くて足袋を履いているような可愛い猫で、〈たび〉という名前にしました。

〈ボン〉は、知り合いの税理士さんにもらってもらうことになりました。2匹ともいなくなると、ねず美ちゃんが寂しがるし、僕らも寂しくなるから、〈たび〉は我が家に残すことになりました。

 ねず美ちゃんと2匹の子猫が、体を寄せ合って寝ているところを見ると、このまま置いておきたい気持ちになります。〈ボン〉を渡さないといけないのにズルズル引き延ばしていたら、だんだん体が大きくなってきました。あまり大きくなるともらってもらえなくなるかもしれません。

〈ボン〉を渡す日に美子ちゃんは出かけていたのですが、連れて行かれるのを見るのは寂しいから遅く帰るという電話がありました。

 税理士さんがショルダーバッグを持ってやって来ました。ぼくが〈ボン〉を捕まえようとすると、カーッと威嚇します。連れて行かれることがわかっているのでしょうか。

 やっと捕まえた〈ボン〉をショルダーバッグに入れ、「可愛がりますから」と言って税理士さんは帰って行きました。うーん、寂しい。やっぱり寂しいものです。〈ねず美〉も寂しそうだったので、体をいつまでも撫でてあげました。

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