【マネーの怪談】思い出した？ だらしない男を襲ったUSBメモリの謎フォルダ

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「なんだったっけ？」

　と思いながら何かがひっかかったのだけどカズユキもまあいいかと思い、無修正の動画をそのメモリにコピーする作業を始めた。そのときに、ふっと思い出した。

「そうだ。思い出した」

　けっこう昔のことだった。震災があって何かの理由でバイトをクビになって、それでカズユキがノボルくんの事務所に転がり込んでいた時期があった。数えてみると8年前の話だった。

　それでなんだかんだとお世話になったのはいいけど、お金がなくなってずるずるとノボルくんからの借金が増えて5万円ぐらいになったときに、

「おい、カズユキそろそろいいかげんにしろ」

　とノボルくんにこっぴどく説教されたことがあった。

「それでなんだったっけ？」

　なんかでその借金を返すことになって、それでこのUSBメモリに入れて返したんだ。

「なんとなく少し思い出したけど、アレはなんだったっけ？」

　カズユキはほんとうにこういったあたりがだらしないうえに忘れっぽい。

「いいから上書きしちゃいなよ」

　とノボルくんが言う。

　それでファイルを消して無修正動画の上書きを始めたところで思い出した。

「そうだ。思い出した。ビットコインだ」

　まだ知る人ぞ知るぐらいの時代にカズユキはビットコイン投資を１万円で始めたところ、一年もしないうちに10万円に増えた。それで儲けたうちの5万円ぐらい使ったところでその話をしたところ、ノボルくんに、

「借金のけじめはしっかりつけろよ」

と叱られて、残りの5万円をノボルくんにこのUSBメモリを渡すことで帳消しにしたんだった。

　当時はまだ仮想通貨を口座開設する方法はマイナーで、みんなウォレットを作ってUSBメモリの中に仮想通貨を保有していた時代だ。

「思い出した。250ビットコインぐらい入っていたウォレットだ」

　と思ったときには無修正動画の上書きが完了していた。当時は1ビットコインは200円、今は1ビットコインが600万円である。

文＝王山覚

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