「許さない…!」“売春婦の墓”の女の霊に取り憑かれた男たち! 骨折、脳の腫れ、死亡…


■メンバーに襲いかかる災い

 舞台は番組に戻る。次に重い口を開いたのは、走り屋のチームリーダーのイェー君。例のことがあった翌日、一緒に行った仲間のフック君、バンク君、ガーン君は、用事があるからと言って先にバンコクに戻ったという。途中寄り道しながらバンコクに戻ったイェー君を待っていたのは、その3人の事故のニュースだった。

 フック君は頭部を強く打ち、脳に腫れが認められるという診断を受けた。バンク君は腕と足を骨折する重傷。一人だけ軽傷ですみ、入院の必要はないと言われたガーン君だったが、最大の不幸が彼を襲った。なんとその日のうちに急に容態が悪化しそのまま息絶えてしまったのだ。医者にも理由は不明だったらしいが、火葬場の人間は「こんなにあちこち骨が折れているのに、医者はわからなかったのか?」と不思議がったという。ちなみに、フォーカス君に「緑のシャツの女、かわいいな」と声をかけてきたのはガーン君だったという。

 それから数日後、フォーカス君がおばさんの家を訪れた時にもおかしなことがあった。彼が家の中に入ると、おばさんはバイクのほうを見ながら「彼女も呼んであげなさいよ」と言うのだ。もちろんフォーカス君に連れはいない。その時はおばさんの見間違いかなんだろうと思ったのだが、帰ってきたお姉さんの言葉にフォーカス君は全身に鳥肌が立った。

 「あの緑のシャツの女の子、フォーカスの彼女でしょ? 紹介してよ」。

 

 これは「売春婦の墓」の霊に取り憑かれている! そう感じた彼は翌日にお寺に行き、もう一度許しを乞おうとした。しかし、そのお寺の僧侶はフォーカス君に近づきこう言った。

「君の運命はもう途切れてしまってるぞ」

 フォーカス君のお母さんが懇意にしている占い師もこう告げた。

「息子さんの命はもうすぐ終わります」

 いよいよフォーカス君は緑のシャツの女に命を奪われる危機を感じ、番組に助けを求めにきたのだった。

 この番組で相談者の悩みを解決に導くのが、霊能者リウ氏である。リウ氏の能力と番組における立ち位置については以前の記事(※リンク)ですでに書いたので、興味がある方はそちらをご参照いただきたい。この日リウ氏は、スタジオに入ってくるなり少年たちにこう告げた。

「君たちの家は決して貧しくもなく、両親もしっかり育ててくれているよね。愚かな行為さえしなければ将来も明るかったのに、その将来はもう来ることはないだろう。私としても非常に残念に思うが、今そこにいる女性の霊に対して、君たちがしたことはそれに値することなんだよ」

 リウ氏には、スタジオに入ってから足を引きずった女の霊がずっと見えていると話した。彼女が自ら彼らを手放そうとしない限り、リウ氏にもどうしようもないという。続けてリウ氏は彼らにこう説明した。

「あの場所で非業の死を遂げ、その恨みの念から成仏できていない霊に対して、君たちは追悼の念を向けるどころか逆に馬鹿にするようなことをしてしまった。その行為は彼女たちの魂をもう一度痛めつけ、踏みにじったということだ。それに対する代償が伴うのは仕方がない。まるで子供が火の怖さを知らずに火遊びをし、大火傷を負うようなものだ」

「今こう話している間も、彼女はずっと君たちを見つめている。本当に反省しているなら、彼女と話してみるがどうなんだ」

まるで職員室における教師と不良生徒のやりとりのような流れになってきたが、死を目の前に突きつけられた彼らは、もちろん反省しきりの様子である。

「彼らにもう一度機会を与えることはできますか」

 リウ氏は女性の霊と会話を始めた。その霊は「生まれたばかりの子供と引き離された挙句、無理矢理売春をさせられ、あの場所で苦しみながら死んだ。死んでからも誰にも引き取られず、誰からも祈ってもらっていない」とリウ氏に訴えた。

「もしこの子供たちを許すとしたら、それは……」

 リウ氏は少年たちを見つめてこう言った。「宿題だ。君たち、出家ができるか。3日でいい。今までの悪行を心から反省して出家をし、あの場所に出向いて彼女たちの霊の成仏を願うことができたなら、君たちは解放される」

 番組は後日、出家をする少年たちを取材していた。しかし、リーダーのイェー君は骨折したバンク君が治り次第一緒に出家をすると約束したため、その日は付き添いとしてお寺に来ているだけだった。同行したリウ氏はリーダーの彼にこう注意した。

 「出家していない君、まだ女性の霊がしっかりついてきているから、気をつけるように」

 その言葉を受けて取材クルーが撮影した写真には、確かにリーダーを見つめるような形で、女性の霊のようなものが写りこんでいたのだった。

 タイには「マイチュア ヤーロップルー」という言葉がある。これは「信じなくてもいいが、侮辱はするな」という意味だ。心霊スポットに肝試し感覚で訪れる者がいるのは日本もタイも同じだが、彷徨う霊を侮辱するような行為は厳禁だ。売春婦の墓に行った彼らは、そのことを身をもって示してくれているといえるだろう。

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文=バンナー星人

2004年よりタイ在住。バンコクの公立学校にてタイの高校生に日本語を教える傍ら、2017年に、高野山大学院通信課程密教学修士号取得。仏教とオカルトが織りなすアメイジングなタイの魅力にとりつかれている。

Twitter : @berialshunnya

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