プラセボ効果は「意味のある反応」 中世医学を再解釈、魔術は信念による自己治癒か?

 新薬開発の実験において大きな役割を担っているのが「プラセボ効果」だが、これまで注目されてこなかったヨーロッパ中世の医学においてプラセボ効果に深い理解があったことがわかってきている。

中世の医療でも注目されていた「プラセボ効果」

 人間には自然治癒能力があり、何かを強く信じることでその能力が開花することがあるといわれている。そしてそれがプラセボ(偽薬)であったとしても、治ると信じて服用すれば一定の効果があることが科学的にも証明されていて「プラセボ効果」と呼ばれている。プラセボにはカプセルに入った単なる砂糖や、生理食塩水の注射などがある。

 また転んでヒザをぶつけて泣き出した子どもを母親が撫でさすり「痛いの痛いの飛んでいけ~!」と“おなじない”を唱えるとピタリと泣き止むこともある。この時、子どもは母親のおまじないを信じているともいえ、これも広い意味でのプラセボ効果だろう。

プラセボ効果は「意味のある反応」 中世医学を再解釈、魔術は信念による自己治癒か?の画像1
画像は「Wikimedia Commons」より

 今日、プラセボ効果はれっきとした医学研究の一翼を担っており、新薬の実験では被験者の半数に本物の新薬が投与され、もう半数にはプラセボが投与される。効能の結果を比較して、新薬がプラセボ効果を上回るかどうかが検証されるのである。

 この200年間、医学研究の分野においてヨーロッパ中世の医療はおおむね前近代的な遺物であるとして研究に値しないものであるとされてきた経緯がある。また中世の治療法ではハーブを使ったものや、あるいは魔術を用いたものまであり、現代医療では否定されているものも多い。しかしプラセボ効果が実証されている中にあって、中世においても“信念”が治療に影響を及ぼすことはむしろ今以上に深く理解されていたとしても不思議なことではない。

 そこでリンカーンメモリアル大学の英語の准教授であるレベッカ・ブラックマン氏による新しい研究では中世の3冊の医学書、『Bald’s Leechbook』、『Leechbook III』、『Old English Herbal』を詳しく解釈する試みが行われている。そして中世の医学におけるプラセボ効果についての理解を検証したのである。

 ブラックマン氏はプラセボという言葉に関連する偏見を薄めるために、アメリカの医療人類学者で民族植物学者であり、ミシガン大学の人類学の名誉教授であるダニエル・エリス・モアマンによって最初に使用された「意味のある反応(meaning response)」という用語を用いている。

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『Bald’s Leechbook』 画像は「Wikipedia」より

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