先史時代の湿地遺体に見られる「オーバーキル」の痕跡…過度な暴力の理由とは?

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 世界各地にある泥炭地では自然にミイラ化した良好な保存状態の大昔の遺体が発見されることがある。湿地遺体(しっちいたい、Bog body)と呼ばれるこれらの驚異の遺体にはある共通する特徴が見られるという。それは遺体に残る過剰な暴力の痕跡だ――。

初めての湿地遺体の包括的研究

 低い気温などのいくつかの条件がそろって形成される泥炭地は植物が完全に分解されずにできた土が堆積し、その土壌には多くの水分が含まれた湿地帯でもある。

 北ヨーロッパでは「ボグ(Bog)」とも呼ばれるこの泥炭地は興味深いことに人間を含む動物の遺体を自然にミイラ化させて良好な状態で土壌内に保存していることでも知られている。

 これまでにもヨーロッパ中の約1000もの泥炭地からさまざまな年代のものと思われるミイラ化した遺体である湿地遺体(Bog body)が発掘されている。デンマークのユトランド半島で発見された「トーロンマン(Tollund Man)」やアイルランドで発見された「ギャラガマン(Gallagh Man)」などが有名だ。

先史時代の湿地遺体に見られる「オーバーキル」の痕跡…過度な暴力の理由とは?の画像1
トーロンマン(Tollund Man) 画像は「Wikimepia」より

 これまで湿地遺体のほとんどは作業中などに偶然に発見されていることから、個別的な発見として記録、保存されており包括的な研究は行われてこなかった。

 そこで今回、オランダ・ワーヘニンゲン大学をはじめとする研究チームは266の考古学的遺跡のデータベースを分析し、そこから1000を超える泥炭地のミイラ、骸骨などの人体の残骸を検証して湿地遺体の体系的研究を行ったのである。

 研究チームは、北ヨーロッパの先史時代および初期の社会における「6つの主要な時代的段階」を特定した。 最も初期の湿地遺体はスウェーデン南部とデンマークで発見され、これらは紀元前4世紀のものである。また“遺体”とは呼べない人骨の亡骸は1万年前にさかのぼるともいわれている。

 イギリスのフェンランドで見つかった一群の湿地遺体は、紀元前3世紀後半から紀元前2世紀前半のものであったが、北西ヨーロッパ全体で発見された湿地遺体の年代のピークは鉄器時代とローマ時代であった。

 一方で中世の湿地遺体のほとんどは、スコットランドとアイルランドの湿地帯で発見されている。

 研究チームはこれらの調査結果は、各年代の湿地遺体には死者の埋葬と弔いの慣行に関する文脈を紐解くものになる可能性があると指摘している。つまり湿地遺体の多くは行き倒れた者の遺体ではなく、人の手によって埋葬されたり、あるいは捨て置かれたものであるというのだ。

先史時代の湿地遺体に見られる「オーバーキル」の痕跡…過度な暴力の理由とは?の画像2
画像は「Wikimedia Commons」より

湿地遺体に共通する「過度に暴力的な死」

 なぜ人々は遺体を泥炭地に配置したのか。研究チームによればいくつかの仮説が考えられるという。

 最も一般的に引き合いに出されるのは「儀式的な生贄」であり、農業の成功を保証するためにおそらく“豊穣の神”に生贄を捧げて「超自然的な繁殖力を強化した」のではないかということだ。

 また「社会的慣習を破った」が故に通常のコミュニティの墓地に埋葬することを許可されなかった者、つまり処刑された死刑囚を含む犯罪者の遺体が泥炭地に運ばれて安置された説もそれなりの説得力を持つ。

先史時代の湿地遺体に見られる「オーバーキル」の痕跡…過度な暴力の理由とは?の画像3
画像は「Wikimedia Commons」より

 さらに狂人や変人などの社会的逸脱者、犯罪行為の犠牲者、および溺死などの事故死者などの“イレギュラー”な遺体が泥炭地に埋葬された可能性もあるという。

 損傷した遺体は当然ながら物理的なダメージを受けたことを示しており、見るからに「過度の暴力」を受けたであろう湿地遺体も少なくないという。今回の研究で分析された約1000の泥炭地の死体のほとんどすべてが「意図的な埋葬」を反映していて、かつ「暴力的な死」を物語っていたのである。

 しかし人身供養などの儀式的な死や死刑による死、一方で戦闘や襲撃による暴行死や物理的な事故死を遺体の状態から見分けることは困難であると研究チームは言及している。

 なぜ湿地遺体には暴行を受けて死んだ者の遺体が多いのか。たとえば集団同士の武力紛争などで死んだ者の遺体はまとめて一箇所に集められてから埋葬されたとしても不自然ではないだろう。しかし湿地遺体の個々のケースにおいて殺害されたのか、それとも事故死だったのか、あるいは処刑や生贄の儀式で絶命したのかはなかなか見分けがつくものではない。

 現時点で確実に言える結論としては、湿地遺体は新石器時代初期から中期に出現しはじめ、その後の7千年間途切れることなく生み出されていたということである。ちなみに最も直近の湿地遺体は第2次世界大戦時にロシアの湿原で戦死した兵士のものである。

先史時代の湿地遺体に見られる「オーバーキル」の痕跡…過度な暴力の理由とは?の画像4
画像は「Wikimedia Commons」より

 まだまだ謎が残る湿地遺体の数々だが、今後の研究の進展を期待するとともに、まだまだ驚くべき発見がこの先に待っているのか注目していきたい。

参考:「Ancient Origins」ほか

文=仲田しんじ

仲田しんじ
場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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