爆弾魔「ユナボマー」と交流した日本人学者の考察 IQ167の天才が送った「異常な手紙」とは?

私の知るDr.カジンスキー

爆弾魔「ユナボマー」と交流した日本人学者の考察 IQ167の天才が送った「異常な手紙」とは?の画像4(向こうの方が遥かに数理論的研究の実績は上であるが)一応、同業者であるため、私は彼のことを「Dr.カジンスキー」と呼んでいた。

 彼の手紙はいつも手書きであったが、論文の形式を取っており、まったく無駄のない簡素な仕上がりが、余計に内容の鋭さを感じさせた。しばしば私に読んでみてほしいと書籍をすすめる時も、正しい論文出典の掲載法に則って、References(参考文献)の形で書かれていた。周囲にはテッドを慕うアメリカの大学の助教授や講師たちがおり、彼を中心とするアカデミックな友人の輪のようなものができているのも私にとっては興味深かった。

 犯罪者に共通して言えることは、「一つ一つの犯罪は私怨に基づいて行われ、その後で然るべき大義名分で正当化される」ということだ。

 テッドの場合も例外ではない。テッドが子供の頃、一人でよく訪れていた丘があったのだが、都会でさまざまな嫌なことを経験し帰ってきてみると、その場所には大きな道路が通過しており、懐かしい丘は跡形もなくなってしまっていた。

 この心の痛みが、彼の引き起こした20年に渡る連続爆破事件の中核だ。

 友達のいない孤独な子供時代、唯一心を癒してくれた「自分だけの丘」。それが意味のない道路のために無残に破壊された。その痛みが、ひょっとしたら彼の心を痛ぶった全ての人間に対する怒りとオーバーラップしたのかもしれない。それ以降、彼はさまざまな大学の研究室や航空会社を中心に爆弾を送り付けるようになった。

 環境破壊への思いは深く、私との個人的なやり取りのなかでも、テッドは『このまま行くと地球を覆う酸素がなくなってしまい、人工的な装置で酸素量を調整しなければならない時代がくる』といった理論を展開した。

爆弾魔「ユナボマー」と交流した日本人学者の考察 IQ167の天才が送った「異常な手紙」とは?の画像5

 もう一つ触れておかなければならないことがある。それは彼が両親と弟に対して抱いていた根深い怒りだ。

 テッドは両親に「自分の人生を台無しにしたことに対する怒り」を、弟に対しては、恐らく自分の二の舞を踏まないように「いい子ちゃん」としてのポジションを取り続けたことへの怒りを抱えていた。子供が事件を起こした場合、「弟さんはちゃんとしているのに」などと周囲の軽々しい発言を耳にすることがあるが、家庭のなかに明らかに存在していた『圧力』が子供のうち一人にしかかからない道理はない。テッドの弟は、兄の失敗を見て『やってはいけないこと』を学び、親からの攻撃を同様に死に物狂いで交わしていたはずだ。一般に、そのような精神的な歪みは大人になっても残り続ける。

 テッドの場合、両親に宛てて「死んだらお前らの遺体に唾を吐きかけるのが待ち遠しくてたまらない」と書いた手紙を送っている。子供時代、両親は彼に「お前はまるで2歳児と同じレベルだ」といった敵意に満ちた言葉をかけ、気に入らないことをした際には徹底的に無視した。

 母親によって友達と付き合うことも止められ、ただひたすら勉強だけをするよう追い込められていたテッド。ポルトガル系アメリカ人の両親は、アメリカでの成功を我が子に託したともいえる。また、弟の誕生が彼に対する愛情を半減させたという可能性もある。

爆弾魔「ユナボマー」と交流した日本人学者の考察 IQ167の天才が送った「異常な手紙」とは?の画像6

 テッドは母子密着が生物学的に必要な乳幼児期に蕁麻疹で母親から引き離され、その後、人間らしい友人との交流も否定され、勉強だけに打ち込むことで社会性を失った。せっかく学校生活で本来の陽気さを取り戻し始めたのに、母親のエゴから飛び級して再び内気な少年に戻ってしまった。ずっと、「条件付きの愛情」で行動をコントロールされ続けてきたテッドには、社会的人間として生きて行くための自我すら築くことができず、どんなに学業的に優秀であっても、同僚と一緒に食事することも不快に感じ、学生との授業中のやり取りすら自然にできない「社会に存続できない存在」になってしまったのだ。

 人里離れた山小屋で完全に孤立した生活を送りながら、人間社会と人類の文明に牙をむき続けるしかなかったのであろう。

文=阿部憲仁

横浜桐蔭大学・全国篤志面接委員連盟理事。教育学博士(Ed.D.)。米国で移民教育に従事後、全米のギャング・マフィア・白人至上主義・連続殺人犯・大量殺人犯等、数多くの凶悪犯との直接のやり取りを通し、日本の安全な家庭・社会のあり方を提言。また、平和活動家として2015年にノーベル平和賞に名誉来賓として召喚される。ドクター国際社会病理。著書に「無差別殺人犯の正体」(学文社)など

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