イギリスで「3人のDNAを持つ新生児」が誕生! 親権は…? 専門家が法的問題を懸念

 3人の親を持つ赤ちゃんが生まれていたことが明らかになった。遺伝子治療の過程で第三者のDNAが埋め込まれた新生児はどうやって生まれたのか、また親権は誰のものになるのか……?

イギリスで3人の親を持つ赤ちゃんが生まれる

 難病に指定されている「ミトコンドリア病」は多くのケースで生後3カ月から2歳までに始まるといわれ、病気が進行するにつれて、全身の筋力低下、筋肉の張りの低下、呼吸と腎臓の異常などの症状が現れることがあるという。そして筋ジストロフィー、てんかん、心臓疾患、知的障害などの症状を引き起こす可能性があるといわれている。一説ではイギリスでは約200人に1人の子どもがミトコンドリア障害を持って生まれている。

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ミトコンドリア 画像は「Wikipedia」より

 ミトコンドリア病は母系遺伝の疾患で、ミトコンドリア遺伝子の変異を持つ女性が子供を作ることをためらうケースもあるのだが、その解決策となるのが「ミトコンドリア置換療法(MRT)」と呼ばれる画期的な遺伝子治療である。ミトコンドリア置換療法では母親となる女性の卵子のミトコンドリアDNAを、第三者の女性のものに置き換える措置がとられている。こうして生まれた赤ちゃんは遺伝的に3人の親を持っていることになる。

 そして先月の2023年5月、イギリスの生殖規制(Fertility regulator)当局は先月、イギリス国内で初めて3人のDNAを使った新生児が誕生したことを認めたのだ。

“初めて”の範囲はやや広いようで、当局はイギリスでこの方法で生まれた赤ちゃんはこれまでに5人未満であると述べるに留め、家族の身元を保護するためにそれ以上の詳細は明らかにはしていない。

 ミトコンドリア置換療法はイギリスで2015年に認可され、現在までに国内で32人の患者がこの治療を受けることが認められているということだ。

 不妊治療の専門家であるり、不妊治療クリニック評価サービス「Fertility Mapper」の設立者であるケイリー・ハーティガン氏が、このニュースについて英紙「Daily Star」の質問に答えている。

「患者に利益をもたらすものはすべて、医療業界にとってプラスです。ミトコンドリア置換療法(MRT)はこれまで安全に子供を産むことができなかった家族にチャンスを与える画期的な技術です。これは患者にとって素晴らしいニュースです」(ハーティガン氏)

 イギリスの出生率は低下傾向にあり、女性1人当たりの子供の数は平均約1.6人にまで落ち込んでいる。ハーティガン氏によれば約7人に1人が不妊に悩んでいる可能性があるという。不妊は今や社会問題になっているというのである。

「私たちがこの分野の研究とイノベーションに投資し、MRTのような新しい臨床サービスを創設したり、AI主導の治療を利用したりすることで、より多くの人が安全に家族を築く機会が開かれます。そしてこれは個人にとって良いニュースであるだけではなく、 社会全体にとって良いニュースです。私たちはより多くの人々に子育ての喜びを体験し、将来に貢献する機会を提供しています」(ハーティガン氏)

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画像は「Pixabay」より

提供者がドナーの立場を超えることはない

 気になるのはもしMRTで生まれた子供の両親が亡くなったり親権を失った場合などに、ミトコンドリアDNAを提供した遺伝的な“第3の親”に子供を引き取る権利があるのかどうかだ。

 この件についてハーティガン氏は「これに関する規則は国によって異なる可能性があります」と説明し、「イギリスにには不妊治療クリニックやヒト胚に関する研究プロジェクトを監督するヒト受精・発生局(HFEA)があります」と管理当局が存在することを指摘している。

「比較的新しい治療法であるMRTに関しては、ミトコンドリアDNAドナーは卵子や精子のドナーと同じ立場になることが期待されており、ミトコンドリアDNAドナーは子どもに対する法的請求権を持っていません」(ハーティガン氏)

 つまり少なくともイギリス国内ではドナーである立場を超えることはないということだ。

「ある人々はウェブサイトやFacebookなどのソーシャルメディアプラットフォームを通じて精子ドナーを見つけています。しかしここに落とし穴があります。その道を選ぶと法律で保護されなくなります。それは、あなたの子供の人生において親の役割を主張しようとする非公式のドナーからの危険にさらされる可能性があることを意味します」(ハーティガン氏)

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画像は「Pixabay」より

 精子提供者をSNSなどで個人的に見つけようとする行為は昨今社会問題化している。そして今後これがDNA提供にも広がらないとも限らない。

「そのため、治療全体を通じてサポートしてくれる、規制を受けた優良な不妊治療クリニックを見つけることが重要です。結論としては、不妊治療サービスや法的請求の複雑さを乗り越えるには、適切なクリニックを見つけて、情報に基づいた決定を下すことがすべてです」(ハーティガン氏)

 実はミトコンドリア置換療法については専門家の間では議論も多く、一部の研究者は倫理的な理由から抗議し、また別の一部の研究者は治療の効果について疑問の声をあげている。しかしこうして実際に生まれている新生児がいることから、今後は長期の経過観察を通じて慎重な検証が行われることになるのだろう。ともあれこの画期的な不妊治療法に今後も注目が集まることは間違いない。

参考:「Daily Star」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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