『ノストラダムスの大予言』に「絶対に人類が滅亡する」とは書かれていない! 五島勉の本当の凄さを愛読者が熱弁

 ミリオンセラーを記録し、オカルトブームの先駆けとなった『ノストラダムスの大予言』。かのオウム真理教も同書の終末思想を利用したといわれるほど、日本社会に大きな影響力を与えた“予言書”だ。ところで、筆者の五島勉(ごとう べん)について語られることは今となってはほとんどない。五島氏の逝去から2年を迎えたいま、彼の文筆家としての姿をふり返りたい。

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※ こちらの記事は2020年7月23日の記事を再掲しています。

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『ノストラダムスの大予言』(祥伝社)

 7月21日、ある文筆家の訃報が流れた。『ノストラダムスの大予言』シリーズの著者として知られる五島勉氏である。彼には個人的に強い思い入れがあったため、そのニュースを知ってしばし感慨にふけった。

 シリーズ第1作である『ノストラダムスの大予言――迫りくる1999年7の月、人類滅亡の日』が刊行されたのは1973年のことだ。フランスの予言者であるノストラダムスが「1999年に人類が滅亡する」という予言を残していたとする本書の内容は、人々に衝撃を与えた。またたく間に評判が評判を呼び、250万部を超えるベストセラーになった。

 特に、当時まだ分別のつかない子供だった世代の人にとっては、そのインパクトは強烈だったようだ。中には、迫りくる人類滅亡を文字通り真に受けて、将来を悲観したり、自暴自棄になったりする者もいた。無類のオカルト好きとして知られる大槻ケンヂもそれを真っ向から信じていた1人だ。勉強嫌いな子供が将来のための勉強をサボるための口実として都合よく使われたりもしていた。

 ノストラダムス直撃世代の若者や子供は、多感な時期にオカルトブームの洗礼を受けた。彼らが生きていた70年代は、日本が経済的に豊かになっていく中で、その光と陰がはっきり浮かび上がった時代でもあった。

 1970年の大阪万博は「人類の進歩と調和」をテーマとして、アメリカに次ぐ世界2位の経済大国となった日本の明るい未来を象徴するイベントだった。一方、公害問題、泥沼化するベトナム戦争、核戦争の脅威など、進化しすぎた文明の負の側面もあらわになりつつあった。

■ノストラダムスシリーズに書かれていた本当のこと

 この時期、人々の不安につけ込むようにオカルトが大流行した。ユリ・ゲラーのスプーン曲げ、矢追純一のUFO番組、コックリさん、心霊写真、口裂け女の伝説など、数々の怪しい話が少年少女たちを魅了した。その極めつけがノストラダムスの大予言だった。

 1979年生まれの私は、残念ながらその直撃世代ではない。でも、ノストラダムス関連の五島氏の著作には個人的に強い影響を受けた。自分の世代では割と少数派だったかもしれない。

 そのきっかけは何気ないことだった。あれは小学校高学年の頃。子供向けの雑誌などで何となくノストラダムスのことは知っていた。そして、図書館でたまたま五島氏の本を見つけたのだ。それはシリーズ5作目にあたる『ノストラダムスの大予言5』だった。

 いざ読み始めると、その内容に引き込まれた。その後も図書館で見かけるたびにシリーズの別の巻を読むようになり、シリーズ8作目の『ノストラダムスの大予言 残された希望編』ぐらいまではチェックしていた。

 いざ本の内容を読んでみると、世間で言われている話とは少し違うな、とも感じた。確かに予言で暗示された悲観的な未来予想図が描かれてはいるのだが、そこには絶望と同時に希望も語られていた。「ひょっとしたらこういうふうにすれば大丈夫かもしれない」「こう考えれば滅亡は免れるかもしれない」といった内容も含まれていて、「絶対に人類が滅びる」などとは断言していなかったのだ。

 五島氏は、その後のインタビューなどでもそういう趣旨のことを語っている。それは、彼の本の内容をきちんと読んだ人にとっては自明のことだった。だが、彼の意図はほとんど正しく理解されていなかった。

 なぜなら、予言を真に受けて人類滅亡に脅えていた人の大半は、本を買ってもいないし、中身をきちんと読んでもいなかったからだ。単に「1999年に人類が滅亡する」というセンセーショナルな部分だけを見て、勝手にパニックに陥っていただけだ。ネットニュースの見出しだけを見て本文を読まずにSNSであれこれ自分の感想を述べる人間が星の数ほどいる今の状況と全く同じである。

 いま思えば、小学生だった私は、我ながら五島氏の「いい読者」だったと思う。予言のことはそれなりに信じていたし、彼の文章を純粋に楽しんでいた。しかし、人類滅亡を頭ごなしに信じていたわけではなく、「書かれている通りに救いの可能性もあるのだろうな」というふうに妙に冷静に理解もしていた。

 何より、1989年頃に五島氏の著書に触れた私にとって、ノストラダムスの大予言は10年後には確実に結果がわかる宝くじのようなものだった。その運命の時が訪れるのを待つという感覚が単純に面白かった。

 その後、私は五島氏が出したノストラダムス以外の予言に関する本も片っ端から読むようになった。アメリカの予言者であるエドガー・ケイシーが「1998年に日本が沈没する」という予言を残していたという話は面白かったが、「聖徳太子が実は予言者だった」という内容の本を読んだあたりから「ん?」と思い始めた。

 そして、極めつけは「イソップ物語は未来を暗示していた」という話だった。子供心にも「さすがにそれはないわ」と思わされた。何でもかんでも予言だと言えばいいというものではない。このあたりで自分も中学に上がり、多少は冷静にものを考えるようになっていたというのもあるかもしれない。

 そして、いざ大学生のときに迎えた1999年には、不思議なほど何も起こらなかった。その代わり、少し前倒しした形で「終末」は訪れていた。1995年に起こった地下鉄サリン事件とその前後のオウム真理教騒動だ。

 カルト宗教の教祖に洗脳された信者たちが、終末思想を実現させるために、大都会の真ん中で世界初の無差別薬物テロを起こした。何もかも破茶滅茶で、悪い冗談のような出来事が現実のものとなった。

 それに前後して、関西地区に深刻な被害をもたらした阪神大震災があり、切断された小学生の頭部が学校の校門前に置かれた神戸連続児童殺傷事件があった。「終末」っぽいムードはちゃんと来た。でも、それは思ったより早かったし、ノストラダムスの予言書のどこにも書かれていないことばかりだった。

 むしろ、ノストラダムスの大予言などに含まれる終末思想を信じたい人たちの情念が最悪の形で具現化したのがオウム真理教であり、彼らの引き起こした一連の事件だったとも言える。

 もちろん、そういった事件の責任の一端が五島氏にあるとは思わない。包丁を使った通り魔事件が起こった際に、その包丁を作った職人に責任を問うようなことはあってはならないのと同じだ。あくまでも悪いことをした人が悪いのであり、間接的に影響を与えた側が責められるいわれはない

■五島勉氏の文筆家としての技量がやばかった

 自分がライターになった今、改めて五島氏の著書を読み返してみると、その書き手としての見事な技量にうならされる。予言というオカルト系の内容であるにもかかわらず、「信じちゃってる人」特有の変な押し付けがましさやうさん臭さがなく、ノンフィクションのような冷静な筆致で書かれている。

 どうとでも取れるような予言を本物っぽく紹介するために、書き手の五島氏はあえて「こんなことは私も信じたくないのだが」などと読者に寄り添う姿勢を見せる。この書き方が上手い。

 文章自体は読みやすく、書かれているエピソードも魅力的で、自然にページをめくる手が止まらなくなる。読者を巻き込む力の強いお手本のような文章なのだ。今の時代であれば、五島氏は間違いなくツイッターフォロワー100万人クラスのカリスマインフルエンサーになっていただろう。

 ノストラダムスは、世界的にはそれほど有名な人物ではなく、予言の話も一部の研究者にしか興味を持たれていないような地味なネタだった。それを「人類滅亡の予言」として日本中に広めたのは、紛れもなく五島氏のペンの力である。文章を書くことで世の中を動かした稀有な例だと言ってもいいだろう。

 五島氏には何かを信じることの面白さと怖さを教えてもらった。ライター業の偉大な先輩として敬意を評しつつ、心からご冥福をお祈りします。

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文=ラリー遠田

作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。

Twitter:@owawriter 書籍情報:https://owa-writer.com/

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