ハマスとイスラエル ― 外交官に聞いた日本人が知らない「暴力と憎しみの背景」

 10月7日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルを大規模攻撃し、2000人以上の死者が出ている。今回の一件だけ見ればハマスが絶対悪だという印象を持ってしまいがちだが、もちろんパレスチナ問題はそう簡単ではない。2014年のイスラエルによる「ガザ侵攻」では、パレスチナ側の犠牲者は2000人以上だったのに対し、イスラエル側の民間人の死者はわずか7人と、イスラエルによる一方的な蹂躙が起こっている。ところで、そもそもハマスとはいかなる組織で、なぜイスラエルと対立しているのか。今一度、パレスチナ問題をふり返ってみよう。

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※ こちらの記事は2014年7月16日の記事を再掲しています。

 イスラエル軍は7月7日より、パレスチナ暫定自治区のガザに対して大規模な空爆を継続している。すでにパレスチナ側の死者は100人を越え、今後の地上侵攻も懸念されている。現在のガザを支配するハマスとは一体どんな団体か、またイスラエルはどうして一般市民の犠牲も厭わない軍事作戦を繰り返すのか。日本人にとって分かりにくい中東紛争の背景について、旧知の外交官に話を聞いた。

ハマスとイスラエル ― 外交官に聞いた日本人が知らない「暴力と憎しみの背景」の画像1画像は「THE INDEPENDENT」より

複雑な歴史

アラブ・イスラム・中東用語辞典』(成甲書房)によると、今回イスラエルの攻撃を受けているガザ地区は、交通や交易の要所として、歴史上何度も大国間で争奪の対象となってきたという。中東に詳しい外交官は、まずこの地域の複雑さについて次のように語った。

「中世、ガザがテンプル騎士団の所領となっていた頃、暗殺教団として知られるイスラム教ニザール派の住民が彼らの小作農として働いていたことがあります。奇妙な呉越同舟というわけです。ことほどさように中東では、宗教とか人種の違いという表面的な視点からでは理解できないことがたくさんあります」

 ガザ地区が現在の地理的範囲に確定されたのは、1948年に起きた第一次中東戦争のときだ。その前年に採択された国連総会決議第181号により、当時イギリス委任統治領だったパレスチナは、ユダヤ人地域とアラブ人地域に分割されることになったが、ユダヤ人側がこの決定を受け入れた一方、アラブ人側は認めなかった。そして1948年のイスラエル独立宣言を機に、周辺アラブ諸国が攻め込んだのだ。

「当時のアラブ諸国にしてみれば、国連でユダヤ人地域とされた部分も含め、帰属のはっきりしてこなかったパレスチナの地を、早い者勝ちで山分けしようと目論んだというのが本音でしょう。しかし結果はイスラエルの勝利に終わりました」(外交官)

 戦争の結果、イスラエルは国連総会決議が認めた範囲を越えて、パレスチナの大部分を支配した。アラブ人側は敗戦後、自分たちが当初無視したこの決議を持ち出したが、すでに後の祭りだったのだ。そして一部は他国に奪われ、支配を受けることとなったが、この時エジプトが支配した領域が、現在のガザ地区なのだ。その後、1967年の第三次中東戦争を経て、イスラエルがガザ地区を占領。そこで状況に変化が生じる。

「ガザと他の地域でそれぞれ活動していたイスラム原理主義組織『ムスリム同胞団』が、相互に交流を始めました。そしてイスラエル政府も、PLO(パレスチナ解放機構)に対抗させるため、ムスリム同胞団の活動を支援したのです」(外交官)

武装抵抗組織ハマスの誕生と現状

 その後1987年にパレスチナ住民蜂起「インティファーダ」が起きると、再び状況が変化する。イスラエルに支援されていたはずのムスリム同胞団が、武装抵抗組織として「ハマス」を結成したのだ。やがて1993年のオスロ合意に基づいて「パレスチナ自治政府」が樹立すると、イスラエルは自治政府との合意により2005年にガザ地区から撤退。しかしその直後から、ガザ地区ではハマスと自治政府との対立が鮮明となる。そしてついに2007年には、イスラエル国家の殲滅を旗印とするハマスが実力でガザ地区を実効支配するようになり、現在に至っているのだ。

「イスラエルはガザから撤退した後も、2006年と2008年の2回、ガザ地区に侵攻しています。2006年はイスラエルのミサイルが誤ってガザに着弾し、死者が出たことで双方の戦闘が激化しました。2008年末には、ハマスのロケット攻撃が原因で大規模な衝突となりました。しかしまともに戦闘を行えば、ハマスが中東最強のイスラエル軍にかなうはずもありません」
「現に2008年末から翌年にかけてのイスラエルのガザ侵攻では、イスラエル側の死者が13人であるのに対し、パレスチナ側は民間人も含め1,300人以上が犠牲となっています。倍返しどころか100倍返しがイスラエルのやり方なのです。他方パレスチナ側は、イスラエルの無差別攻撃で死亡した民間人の惨状をメディアに流すことで、イスラエルの非道を世界に訴える戦術を繰り返しているのが現状です」(外交官)

紛争の背景にある事実

 さて、今回の紛争の直接の契機は、先月12日にイスラエル人少年3人が誘拐され、30日になって全員が遺体で発見された事件だ。しかし外交官は、そこには国家の思惑も見え隠れすると語る。

「小規模な攻撃とはいえ、ガザからロケット弾攻撃を繰り返すハマスは、イスラエルにとっては非常に目障りです。ネタニヤフ首相はガザに侵攻し、ハマスの軍事力を削ぐ機会を常に狙っており、イスラエル国民の多くも強硬な対応を支持します。今回の事件は、ネタニヤフ首相に格好の口実を与えたという側面があるでしょう」
「イスラエル側は国際社会の圧力も睨みながら、ある程度の軍事的目標を達成したら、これまでと同様に撤退するものと思われます。このように定期的にガザに侵攻することで、ハマスの活動を一定の限度内に封じ込め、同時にガザの発展を阻害することもイスラエルの思惑でしょう」(外交官)

ハマスとイスラエル ― 外交官に聞いた日本人が知らない「暴力と憎しみの背景」の画像2画像は「THE WALL STREET JOURNAL」より

 さらに外交官は、イスラエルがこのように強硬な姿勢を貫く背景には、別の事情もあると指摘する。

「日本ではほとんど報じられませんが、誘拐事件の犠牲者となった少年の1人はアメリカ国籍も有していました。つまりアメリカにとっては、自国民が巻き込まれた事件でもあったわけです。実はイスラエルには、欧米との二重国籍を持つ人も多いのです。つまり欧米諸国にとっては、自国民がテロの犠牲者にもなっている。イスラエルに対する欧米諸国の対応がいまひとつ手ぬるいように見える原因のひとつは、こうしたところにもあります」

 そして外交官は次のように話を締めくくった。

「一方、勝ち目のない無用の戦いをもたらして市民の犠牲者を増やすハマスの態度も、統治者としての的確性を欠くものと言わざるを得ません。真に住民のことを考えるなら、時には忍びがたきを忍ぶことも必要なはずです。また、ハマス支配下のガザ地区では、言論の自由は封殺され、反対勢力に対する拷問や暗殺も日常茶飯事です」
「他方パレスチナ人に対して容赦のないイスラエルは、2008年にハマスに誘拐された兵士1人の解放に対する見返りとして、テロ容疑で収監されていたパレスチナ人1,000人以上を釈放したことさえあります。少なくとも自国民の生命に関しては、イスラエルの方が格段にこれを重視していると言えるでしょう」

 幾度となく繰り返されるパレスチナでの紛争。いつの日か、暴力と憎しみの連鎖が断ち切られる時はやって来るのだろうか。

文=櫻井慎太郎

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