事故物件よりもウツになる「暗黒物件」とは?“不動産執行人”が暴露
――DV・自殺・暴力団・宗教・統合失調症…事故物件よりも鬱になる「暗黒物件」の闇を“不動産執行人”ニポポが語る
「“この仕事”は、彼らにとって死刑執行人みたいなものですから」
これが、筆者である私ニポポが“この仕事”を始める前に告げられた心づもり。
もちろん“この仕事”とは、13階段を上り首に縄をかけられた死刑囚の踏み板と繋がる3つのボタンのうちのどれか一つを押し、午後には半休をもらって帰宅するという噂に聞く、あの刑務官、あの死刑執行人ではない。
そもそもそのような死刑執行は数自体も少なく、それだけで生業となるようなものではないのだろう。
「競売にかけるため、債務者の物件を差し押さえに行く」
これが“この仕事”の正体。
DV、虐待…不動産執行とは?
正確には「不動産執行」と呼ばれ、住宅ローン返済や借金返済の滞りに起因する債権者からの強制執行申立が認められた際、債権の弁済や充当目的の競売にかけるべく債務者の所有する、不動産(土地・建物)を取り上げに行くというもの。
もちろん即日取り上げで債務者を追い出してしまうということはなく、いわば最後通告を行うのだが、我々が訪ねてきたその日から競売に向けた歯車はゆっくりと回り始める。そして約半年後には出ていかざるを得ない状況に債務者は直面するのだ。
訪ねてくる不動産執行人には2~4種類の役割を持つ人間がいる。私も以下に紹介する役職の1つに関わり、日々の業務をこなしている。
【執行官】
管轄の裁判所から派遣される不動産執行のリーダー的存在。債務者がここに至るまでの経緯や状況を把握し、必要書類を不備なく収集及び作成し現場でも指揮を執る。債務者と最も接触する回数の多い役職だ。
【不動産鑑定士】
債務者が権利を持つ不動産の情報を精査及び調査し、最終的には現況確認でその価値を判断する。言うまでもなくこの査定額が競売物件の入札開始価格の元となる。物件に最も深入りすることになり、競売事件の要ともなる役職だ。
この2つの役職を持つ人間が揃えば、基本的には不動産執行は無事執り行われるのだが、そうとも言えない事例もある。債務者の雲隠れや連絡断ち、室内を施錠したままの自殺や立て篭もりといったケース。この場合には更に2つの役職を持つ人間が加わることになる。
【鍵屋】
どんなに固く施錠された物件でも迅速に解錠しなければならないという高いスキルが求められる役職。多くの入札業者がありながらも現場に残れるのはごく少数で、少人数が管轄を跨いだ広域をカバーしている。故に情報通。
【立会人・見届人】
無人の室内に立ち入るまでの流れに問題がないか、入室後の窃盗や傷つけなどがないかを確認する役職。ほぼ全ての人員が元警察官という経歴を持つ。
このような面々が揃うといよいよ差し押さえも最終局面。
室内への立ち入り調査は管轄によってルールも異なるが、概ね以下の通り。
不動産執行のルール
【1・説明】
解錠事件以外では執行官を先頭に入室。債務者に現在の状況を伝え、本日の差し押さえ以降の流れを説明。
なお、ゴミ屋敷化する物件も多く、土足で上がるのか、スリッパを着用するのか、靴下のまま上がるのかも執行官の判断。
【2・調査】
物件調査開始。立地条件や広さなどから容易に割り出せる市場価格を参考に、痛みや故障箇所、その他瑕疵(かし)事案を見つけ、減点方式で不動産価値を絞り込んでいく。
出来る限り写真撮影も行い、その場で間取り図面を取り、占有者からの報告にも耳を傾ける。
また、近隣との境界トラブルの有無や図面通りの敷地面積があるのか、接道状況に問題はないかといった確認も行う。
【3・質疑応答】
ほどなくして物件調査は終わるが、債務者には不安のみが残る。そのため債務者の不安点や質問に応じつつ、改めて今後の流れについて説明を行う。
【4・解散】
基本的に関わる全ての不動産執行人が現地集合現地解散となっているため、最後に物件外観の写真を撮影し現地解散。
もちろんこれは理想形の流れであり、債務者とのトラブルに発展するケースや債務者が取り乱すケース、警察沙汰という場合もある。
当然といえば当然なのだが、この状況で債務者に的確な判断力や、感情に流されない対応を求めるのは酷な条件提示。少々のトラブルは仕方のないことと捉えている――。
多くの債務者は、差し押さえの状況に至るまで、ジェットコースターさながらのスピーディーな経済的転落を経験している。急速に追い詰められていく環境の変化に対応しきれない債務者の心は当然荒れ果てていく。そして、やがて家族や物件に消えない傷を負わせることになるのだ。
DV、虐待、セルフネグレクト、自殺、心中、薬物中毒、暴力団、詐欺、宗教、統合失調症。社会問題と考えられる多くの事案と日々出会う仕事なのだ。
この資本主義社会に於いて、経済的なつまずきは人の心を荒廃させる。誰にもある心の中の闇が蝕むように広がりやがて、暗黒となる。
そのような暗黒に染まる物件を本稿では「暗黒物件」として紹介していきたい。それらは果たして遠く離れた世界の出来事なのだろうか、それともすぐ後ろでアナタの歩みが止まるのを待ち受けている出来事なのだろうか。
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