「歯痛以外の理由なし」と書き残し飛び降りて死亡した男性は“自殺病”を患っていた可能性
ゴールデン・ゲート・ブリッジから身投げした男性の遺書には「歯痛以外の理由はない」と書き残されていた。人は歯の痛さで自殺することがあるのだろうか。ある専門家は彼は“自殺病”にかかっていたのだと説明しているのだが――。
■身投げには「歯痛以外の理由はない」
直訳だが風情のある「金門橋」とも呼ばれれているアメリカ西海岸の「ゴールデン・ゲート・ブリッジ」はサンフランシスコの主要な観光名所であるが、その一方でいわゆる“自殺の名所”としての不名誉なレッテルも貼られている。1937年の開通以来、1800人以上がゴールデン・ゲート・ブリッジから飛び降りているのだ。
身投げする前に遺書を書き残す者も少なくないのだが、1954年11月に橋から飛び降りたジョン・トーマス・ドイル(49歳)の遺書には「歯痛以外の理由はない」とだけ書かれていた。
検死の結果、ドイルには確かに状態の悪い親知らずがあったことが判明した。しかし本当に歯痛だけが原因で身投げすることなどあるのだろうか。
この話題を取り上げた英タブロイド紙「Daily Star」の記事では、ドイルは単純な歯痛に悩まされていたのではなく“自殺病”に罹っていたのではないかと指摘している。
“自殺病”として知られる厄介な症状とは「三叉神経痛(trigeminal neuralgia)」で、歯や顎を含めて耳や目、鼻、唇、額、頬など顔のどの部分にもひどい痛みが引き起こされる可能性があるという。
三叉神経痛の治療法はなく、主に50歳以上の人々が罹患するが、5歳未満の患者も記録に残されている。
米アリゾナ州フェニックスのショーン・オーモンド医師は、この疾患を抱える患者が耐え難い痛みの結果として自殺念慮を抱く割合が高くなるため、“自殺病”の名前が付けられたと説明している。
また「Unclycopedia」によると、ドイルは幼い頃から夢遊病に苦しんでいたことがわかっており、死に至るまでの瞬間にある種の解離状態にあったのではないかという。精神の解離状態は、無意識的防衛機制の一つであり、ある一連の心理的もしくは行動的過程を、それ以外の精神活動から隔離してしまうことである。つまり常軌を逸した行動に及びやすくなるのである。
もちろん事の真相は本人にしかわからないが、“自殺病”と呼ばれる症状があることを理解しておいてもよいのだろう。
■金門橋から身投げした面々
いずれにせよゴールデン・ゲート・ブリッジは人々の自殺のホットスポットとしてますます悪評が高まっている。
1937年の運用開始初年のゴールデン・ゲート・ブリッジから飛び降りて命を落としたと最初に報告されたのは47歳の船員、H・B・ウォバー(47歳)である。
1937年8月8日、橋の通行人に向けたウォバーの最後の言葉は「私が進むのはここまでです」というセリフだった。
その後、橋では何百人もの自殺者が続出し、1973年9月には 498人目と499人目の犠牲者がわずか数時間以内に自ら命を絶ったと「LAタイムズ」は報じている。
498人目は55歳の社交界の名士で、ゴールデン・ゲート・ブリッジのそれほど高くないガードレールを乗り越え眼下の冷え切った海に飛び込み死亡した。そのわずか2時間後、499人目となる若い男性も同じ運命をたどったのだ。
おそらく最も衝撃的なケースは、1973年10月9日に飛び降り、下の岩の上で死体となって発見された500人目の犠牲者である。伝えられるところによると、テレビクルーはこの物騒な出来事を予期し、テレビカメラを準備して橋に張り込み飛び降りを待っていたという。
案の定、この日に腰の高さのフェンスを飛び越えて転落死したのは、26歳の病院技師スティーブン・ホーグだ。彼の母親はその夜のニュースで彼の自殺を知った。
一方で飛び降りたが生き残った人々が36人いる。そのうちの1人、ケビン・ハインズ氏(当時19歳)は2000年9月25日、40分近く橋の歩道を歩き続けた後、高さ4フィートの柵を飛び越えた。
「手がレールから離れた瞬間、一瞬で後悔した」と彼は英紙「Daily Mail」に語っている。
彼は脊椎と足首を骨折したが、奇跡的に生き残った。現在41歳のハインズ氏は講演家、作家として自らの体験を物語る活動をしている。
「ブリッジレール財団(Bridge Rail Foundation)」によると、1937年の開通以来、1800人以上がゴールデンゲートブリッジから飛び降りたと考えられている。
「CBS」の報道によると地方行政は2017年になって初めて、橋の両側の歩道の20フィート下を通る鋼鉄製ケーブルのネットで構成される自殺防止柵の敷設工事を開始したという。今年末までに完成する予定で、多くの命を救うことが期待されている。“自殺の名所”の汚名が返上される日が近いことを望みたいものだ。
参考:「Daily Star」、「Unclycopedia」ほか
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