『7階の多目的トイレ』異世界とこの世を結ぶ何かが渦巻いているのか…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

 現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、うえまつそうの新連載「島流し奇譚」。この連載では現役教師ならではの他にはない実話怪談を紹介する。第三回目となる今回は都内のとある高校の多目的トイレにまつわる話。

第一回:時空を超えた窓…新築校舎に赴任した教師が見たあり得ないもの
第二回:宮古島のカブ畑 ― サウナで出会ったおじいさんは“最後”だったのか


 普段は高校の体育教師もしているのですが、この話は私が実際に体験した摩訶不思議な出来事。

 いまから約15年ほど前、まだ20代だった私は都内のとある定時制の高校に勤めていました。

 15時出勤で22時退勤という少し遅い時間帯の学校生活。その学校は都会にあり、エレベーターもあるくらい新しい7階建ての校舎だったのですが、やはり夜の学校というのはいつの世も怖い噂が絶えなかったりするのです。ある日を境に生徒たちが職員室にとある奇妙な報告をしに来るようになりました。

『失礼します。先生、7階の多目的トイレが開いていて誰かが中からこっちを見ていて怖いんです』

 え?そんなはずはない。7階には書道室や音楽室、美術室など、授業がなければ誰もその階には行かない階。クラスの教室は無い階で、人がいないとシーンと静まり返り、どことなくグッと薄暗さがある空間。

 エレベーターホールの付近にある多目的トイレは横開きのドアなのですが、使用することはあまりなかったため普段は施錠されて固く閉ざされていたのです。誰かがそこから覗いているなんてありえない。

『え?また?ちょっと待っててね』

 実は今回が初めてではなく、ここ数日このようなことが何度も起きていたのです。

 私はいつものようにその多目的トイレ用の鍵を職員室のキーケースからジャラッと取り、その生徒と共にエレベーターで7階まで上がりました。

 ポンと到着の音が鳴り、ガチャンとエレベーターのドアが開く。相変わらず薄暗いエレベーターホールの奥正面に見える多目的トイレに近づいて行きました。

 ガチャガチャガチャ…押しても引いてもドアは施錠されたまま異常なしでした。

『さっき絶対に開いてたんですって!そこから誰かの目が見えたんですって!』

 特に嘘をつくような生徒でもなく本人の眼差しがとことん真剣だったので騙していたようでもなかったんです。

 またある日も、またある日も『先生、7階も多目的トイレが…』と生徒たちが不安な顔で職員室を訪ねてくる中、とある梅雨真っ只中の土砂降りの日にまた職員室に生徒が訪ねてきたんです。

『失礼します。先生、ちょっと7階の多目的トイレから…』
『え?また開いて覗いてた?仕方ないなあ』
『いえ、違うんです』

その日はいつもと様子が違ったのです。すっかり定番になっていた7階の多目的トイレから誰かが覗いている案件、ではなく今回は鍵は開いていないのですが【中から女の子が泣いているような声がする】というのです。

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 とにかく行ってみよう。いつものようにマスターキーを持ち生徒と共に7階へ。エレベーターが7階に着きドアが開いた瞬間にもうわかりました。

『スン…スン…グスン…うう…スン…』

 間違いなく多目的トイレの中から女の子の鳴き声がすでに聞こえていたのです。

 近づいてガチャガチャガチャ…ドアは施錠されている。

 ドンドンドンとドアを叩きながら『誰か中にいるか?大丈夫か?』そう尋ねると、まさかの返答があったのです。

『助けて…ここどこ?暗くてわからない!』

 これは幽霊ではなく、間違いなく人間だ。中でパニックになっている様子だったので、持ってきたマスターキーでトイレを開けると…

 広い多目的トイレの真ん中で体育座りをしてうずくまる1年生の女子生徒がいたのです。

『なんでこんなところに、どうやって入った?』

 まだうまく会話ができないくらいのパニック状態になっていたので、まずは1階にある保健室へと連れて行き休ませました。

 30分ほどが経ち泣き止み、ようやく落ち着いて来たので再度聞いてみました。

『大丈夫か?どうやってあの7階のトイレに、なんで入ったんだい?』

『違うんです。私、7階なんて行っていなくて。休み時間に自分の教室のある3階のトイレの個室に入ったんだけど、疲れて眠っちゃって。ハッと起きたらあの多目的トイレにいたんです。しかも真っ暗でここがどこかもわからなくて怖くて怖くて…』

 その女子生徒は3階のトイレでうたた寝をしてしまい気づいたら7階の施錠された多目的トイレの中にワープしていたというのです。震えが止まらない女子生徒を見て、嘘をついていないのはすぐにわかりました。

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 とある学校の7階の多目的トイレ、そこは異世界とこの世を結ぶ何か不可思議な扉が渦巻いているのでしょうか?

 昔から学校のトイレというのは何かいわれがあるものですが、昔のトイレの花子さんのようなものとは違う令和らしい現代らしい学校の怪談になりつつあると感じました。

 いまでもたまにその7階の多目的トイレ、施錠しているはずのドアが少しだけ開いて誰かが覗いている、そんな報告が職員室には来ているそうです。

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文=うえまつそう

東京都新島生まれ。現役で高校の体育の先生をしながらベーシスト、デザイナー、そして怪談を語っている。島怪談、学校の怪談を生業とし自ら取材や現場での検証などもしている。
YouTubeチャンネル『うえまつそうのMOYAI TUBE』では怪談や心霊スポットなどオカルトに特化したコンテンツを配信。 エフエム那覇、ラジオフチューズにてラジオ番組ももち精力的に活動している。

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