人魚が守る島の掟と宝【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

 現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、うえまつそうの新連載「島流し奇譚」。この連載では現役教師ならではの他にはない実話怪談を紹介する。第六回目となる今回は、「島の人魚」にまつわる恐怖体験。

第一回:時空を超えた窓…新築校舎に赴任した教師が見たあり得ないもの
第二回:宮古島のカブ畑 ― サウナで出会ったおじいさんは“最後”だったのか
第三回:『7階の多目的トイレ』異世界とこの世を結ぶ何かが渦巻いているのか…
第四回:夕暮れ時の「目玉の雨」高校教師が語る戦慄の恐怖体験
第五回:「三途の川を見に行く方法」対岸に立つ存在の正体とは…時を経て現れた闇の存在

 人魚というとどんなものを思い浮かべるだろうか?上半身は女性、下半身は魚で綺麗で美しい歌を歌う。そんなイメージではないかと思う。

 しかし、伊豆諸島での人魚というのはとても怖い存在だ。

 島での人魚は若い女性のような風貌ではなく、しわくちゃな老婆の見た目をしており、宝物を守るいわゆる門番的な役目の妖怪と言い伝えられている。その宝物というのは金銀財宝ではなくアワビやサザエなど海産物の特に貝のことを指す。

 その宝物を密漁し勝手にとるものは人魚によって海に沈められ殺されるとまで言われている。

 いまから数年前、とある島で実際に起きた世にも恐ろしい出来事。

 伊豆諸島というのは夏場は観光客で溢れかえる島々だが、冬や春先になると偏西風も相まって風は吹くは海は荒れるわでお客さんも減り、釣り客が来るくらいで観光目当てで島に来る人はかなり少なくなる。

 そんな時期に、島は数ヶ月後にやって来る夏の繁忙期に向けて道路や施設などを工事したり整備する。そのためにいろいろな業者が本土から住み込みで数週間から数ヶ月やってくる。

 今回の体験者はそんな業者のひとりAさん。

 Aさんはとある年の冬場に島に来て住み込みで働き始めた。特に娯楽というものがない島だったが、毎日夕方まで汗水流して働き、宿のシャワーで汗を流して散歩をしながら島にポツンとある居酒屋でビールを飲むことが何よりも楽しみだった。10日ほどたったある日、仕事を終えて宿に戻るときに海沿いで魚のようなものがピョン…バシャンと跳ねた。それが魚ではなくどう見ても人魚だったそうだ。

イメージ画像 Created with DALL·E

 驚きながらも宿に帰りシャワーを浴びて、Aさんはいつもの居酒屋に歩いて向かった。

 居酒屋へ着くとすぐに「おいオレよぉ、さっき桟橋の近くの海で人魚が跳ねたのを見たんだよ!」そんな夢のような話を他の常連客たちは相手にしなかったが、その居酒屋の女将だけは顔色を変えて

「あんた明日から、いや今日からなるべく海に近づかないようにしな。本当に死ぬよ」

 その女将の顔つきが真剣だったのもありAさんは島から出る予定の2週間後までなるべく海に近づかないことを心に決めたそうだ。

 この居酒屋までAさんの宿からは海を通るルートと山を通るルートとふたつ道がある。いつもはやはり海が好きだからと海を通るルートを歩いていたが、それならば山のルートを通れば海沿いに近づかなくて済むぞと、今日も仕事を終えて宿に戻り、シャワーを浴びて山のほうの道を通って居酒屋へ向かって行った。

 しかし、ハッと気がつくとなぜか海沿いの道を無意識に歩いていたのだ。そのときにまたピョン…バシャっと人魚が跳ねたそうな。

 次の日も次の日も山を通るつもりが海を通ってしまう。そしてまた人魚が跳ねる。

 困惑しながらもまた今日も勝手に足がフラッと海沿いに行こうとしていた。

 毎日毎日同じことをしてるようで、気づいたことが…

 1日目、2日目、3日目、4日目と日を追うごとにどんどんどんどんと徐々に徐々に体が勝手に海に近づいていたという。

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「ちょっと待て。このままいったらいつか海に飲み込まれるんじゃないか」そう思いながら1週間が経った時、気づくと無意識のうちに海ギリギリの桟橋の先端まで来てしまっていた。これは明日桟橋から落ちてしまうかもしれない…そう思い恐ろしくなったAさんは居酒屋に行くことも、仕事すらも行かず、翌日は宿に引きこもった。

 その晩、Aさんが珍しく来ない居酒屋さんで常連客たちが「Aがいないと静かだなぁ。今日はあいつ大丈夫かなぁ」と噂話をしていると、なにやら救急車なのかパトカーなのかサイレンの音で外が騒がしい。

 この島でサイレン音なんて滅多に鳴らないため、居酒屋から音のする港の方へ駆け寄ってみると…

 Aさんが車ごと桟橋から落ちて海に沈んでいた。しかもブレーキもかけずに海に突っ込んだらしい。発見されたのが遅かったこともありAさんはそのまま亡くなってしまった。

 なぜ車ごと海に突っ込むという行動を取ったのか、はたまた何か不思議な力がそうさせてしまったかはわからないが、実際にあったお話。しかし観光がさかんな島なので、噂になっては困るからなのか、あまり表には出ない事件だ。

 あとから知ったことだが、その亡くなったAさんは人魚を見る前の晩までどうやらサザエを密漁していたという。

 やはり島の宝物を奪ったからと、人魚がくだした天罰だったのかもしれない。

 

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文=うえまつそう

東京都新島生まれ。現役で高校の体育の先生をしながらベーシスト、デザイナー、そして怪談を語っている。島怪談、学校の怪談を生業とし自ら取材や現場での検証などもしている。
YouTubeチャンネル『うえまつそうのMOYAI TUBE』では怪談や心霊スポットなどオカルトに特化したコンテンツを配信。 エフエム那覇、ラジオフチューズにてラジオ番組ももち精力的に活動している。

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