火星で最大級の「有機分子」を検出!“生命の痕跡”に一歩近づく発見か

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画像は「NASA Jet Propulsion Laboratory (JPL)」より

 火星における生命の可能性を探る上で、新たな一歩となる発見が報告された。NASAの火星探査車「キュリオシティ」が、火星表面でこれまでに見つかった中で最大級の有機化合物を検出したのである。今回の発見は2025年3月25日付で米国科学アカデミー紀要に掲載された。

謎を秘めた岩石「カンバーランド」

 検出されたのは、2013年に火星のゲール・クレーター内「イエローナイフ湾」と呼ばれる場所で採取された岩石サンプル「カンバーランド」からである。NASAの火星科学研究チームは、この岩を何度も分析してきたが、今回は有機分子の分析に特化した装置「SAM(サンプル分析モジュール)」で再解析を行った。

 その結果、デカン、ウンデカン、ドデカンという炭素数10~12の直鎖アルカンが検出された。これらは、地球では「脂肪酸」の分解によって生じることがある分子で、生物の細胞膜の構成要素として知られる。

生命の痕跡か、それとも非生物的起源か?

 脂肪酸は生命活動によって作られることが多いが、必ずしも生物の存在を意味するわけではない。地球でも地下深部の熱水鉱床や鉱物との化学反応によって、非生物的に合成されることがある。

 今回の有機分子の起源が生物によるものかどうかは現時点では判断できない。しかし、キュリオシティのチームは「このように大きな有機分子が火星で保存されていた」という事実そのものに注目している。

 以前、火星ではもっと単純な有機化合物(メタンや簡単な炭化水素など)は検出されていたが、今回のように炭素数の多い分子が見つかったのは初めてだ。これは生命の起源に必要な化学進化が火星でもある程度進んでいた可能性を示唆している。

火星に「生命を育む環境」があった証拠

 カンバーランドが採取された「イエローナイフ湾」は、かつて湖だったと考えられている場所だ。泥岩という細粒の堆積岩が広がり、水の存在を示す粘土鉱物が豊富に含まれている。また、有機物の保存に重要な硫黄や、地球では植物や動物の栄養源となる硝酸塩も検出されている。

 さらに、カンバーランドには地球の生物由来メタンに似た炭素を含むメタンも見つかっている。これらの条件を総合すると、かつてこの火星のクレーターには、生命が誕生するために必要な化学反応が起こり得る環境が存在していた可能性がある。

 NASAの研究者ダニエル・グラヴィン氏は、「ゲール・クレーターには数百万年以上、液体の水が存在していた証拠があり、生命の化学が進化するには十分な時間があったと考えられる」と語る。

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イメージ画像 Created with DALL·E

火星のサンプルを地球に持ち帰る日へ

 今回の発見は、今後の火星サンプルリターン計画にとっても希望となる。研究チームによれば、「今回の結果は、もし過去に火星に生命が存在していたなら、その痕跡となる化学的サインを今日でも検出できる可能性を示している」という。

 火星で採取された試料を地球の最先端機器で詳しく分析できるようになれば、生命の有無についてさらに確実な手がかりが得られるかもしれない。

 火星にかつて生命が存在していたかどうか――その謎を解く鍵は、すでに赤い惑星の大地に埋もれているのかもしれない。今回の発見は、その扉がわずかに開かれた瞬間だったのではないだろうか。

参考:NASA Jet Propulsion Laboratory (JPL)PNAS、ほか

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