毎晩“もう一つの人生”を生きる人々 —— 超リアルな夢に苦しむ「エピックドリーミング」とは

眠りは本来、心身を休ませるための時間である。
しかし世の中には、眠りにつくたびに“もう一つの人生”を体験し、朝になるとぐったり疲れ切って目覚める人々がいるという。近年、睡眠研究者たちの間で注目を集めているのが、「エピックドリーミング(Epic Dreaming)」、あるいは「ハイパーオネリズム(Hyperonirism)」と呼ばれる現象だ。
単なる「鮮明な夢」とは少し違う。むしろ問題なのは、その夢があまりにもリアルすぎることである。
「第二の勤務」が始まる夜
誰でも時には奇妙な夢や悪夢を見る。しかしエピックドリーミングの特徴は、夢が怖いわけではない点にある。
ロンドンのキングス・カレッジにある睡眠・脳可塑性センターのイヴァナ・ロゼンツヴァイク博士によれば、この現象を経験する人々は毎晩のように非常にリアルな夢を見続けるという。夢の内容は必ずしも劇的ではなく、むしろ日常的で単調なものが多い。
たとえば仕事をする、誰かと会話をする、スポーツを続ける――そんな何気ない場面が延々と繰り返される。
その結果、多くの人が「寝ている間にもう一日過ごしてしまったような感覚」を覚えるという。睡眠が休息ではなく、“夜勤の第二ラウンド”になってしまうのだ。
悪夢ではないのに疲れ果てる理由
エピックドリーミングに悩む人々は、朝起きた瞬間から強い疲労感を訴える。
興味深いのは、睡眠時間そのものが不足しているわけではないケースも多いことだ。研究では、患者のレム睡眠(夢を見ることが多い睡眠段階)の長さは平均的、あるいは平均より短い場合すら確認されている。
つまり、「夢を見すぎて寝不足になる」という単純な話ではない。
博士が紹介したある患者は、サッカー経験者だった。彼は毎晩のようにワールドカップ級の試合に出場する夢を見ていたという。しかし恐ろしい相手に追われるわけでもない。問題は試合が終わらないことだった。
スコアは異常なほど増え続け、それでも走り続け、パスを出し、相手を追い続けなければならない。朝目覚める頃には、まるで本当に試合を何時間も戦い抜いたかのような消耗感に襲われていた。
悪夢のような恐怖ではなく、「終わりのない現実感」が人を疲弊させるのである。
夢と現実の境界が曖昧になる
さらに研究者たちが注目しているのが、夢と現実の記憶が混ざり始める現象だ。
フランスの38歳女性は、自身の夢について「何週間も記憶に残り、実際に起きた出来事だと勘違いすることがある」と語っている。夢の中で体験したことが、まるで本当に経験した過去の出来事のように感じられるという。
また別の女性は、朝起きるたびにメールやメッセージを確認しなければ、どの会話が現実でどれが夢だったのか判断できなかったという。こうした状態が7年間も続いたケースも報告されている。
これは単なる夢の記憶力の良さではない。
研究チームを率いる心理学者ピエール・ジョフロワ教授は、「夢と現実の記憶を区別する境界が曖昧になっている可能性がある」と指摘している。特に日常生活そのものを再現したような夢ほど、その混同が起こりやすいという。

脳はなぜ夢を“閉じ込められない”のか
研究者たちは、エピックドリーミングが発生する背景として、脳が夢を睡眠中だけの体験として適切に隔離できなくなっている可能性を考えている。
睡眠と覚醒の切り替わりに何らかの異常が生じ、夜間の精神活動が過剰になっているのかもしれない。しかし現時点では神経学的なメカニズムはほとんど解明されていない。
もちろん、たまに鮮明な夢を見る程度なら心配する必要はない。だが、毎朝疲労困憊で目覚めるほどのリアルな夢が何ヶ月も、あるいは何年も続くのであれば、それは単なる「夢見が悪い」で片付けられない可能性がある。
眠っているはずなのに休めない――。
エピックドリーミングは、私たちが当たり前だと思っている「睡眠」の仕組みが、実はまだ多くの謎に包まれていることを改めて示しているのかもしれない。
参考:Daily Mail、ほか
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