人類は「冬眠」できるのか?体内に眠る“スーパーパワー”遺伝子が健康と長寿の鍵になるかもしれない

人類は「冬眠」できるのか?体内に眠る“スーパーパワー”遺伝子が健康と長寿の鍵になるかもしれないの画像1
イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

 冬眠中の動物は、特殊な遺伝子を働かせることで極限の省エネ状態で生き延びる。そして驚くべきことに、我々人間も、その「冬眠関連遺伝子」を体内に持っていることがわかってきた。

 もし、この眠れる遺伝子のスイッチを自在にオン・オフできたらどうなるか。最新の研究は、肥満や糖尿病、さらには脳卒中といった現代の病を克服する驚くべき可能性を示唆している。

冬眠がもたらす「生物学的なスーパーパワー」

「冬眠は、我々にとって重要な生物学的なスーパーパワーを数多く提供してくれます」と、研究を主導したユタ大学のクリストファー・グレッグ教授は語る。

 例えば、ジリスは冬眠前に、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」を自在に操り、急速に体重を増やすことができる。このスイッチを解明できれば、2型糖尿病の治療に応用できるかもしれない。

 また、冬眠から目覚める際、動物たちの脳には大量の血液が再び流れ込む。通常であれば、これは脳卒中のように深刻なダメージを引き起こすが、彼らはそれを防ぐメカニズムを持っている。この神経保護能力を人間が利用できれば医療に革命が起きるだろう。

 グレッグ教授らのチームは、人間の体内にある「冬眠関連遺伝子」を活性化させることで、こうした恩恵を引き出せるのではないか、と考えているのだ。

人類は「冬眠」できるのか?体内に眠る“スーパーパワー”遺伝子が健康と長寿の鍵になるかもしれないの画像2
Image by Fer Galindo from Pixabay

肥満と代謝を司る「冬眠遺伝子のハブ」

 研究チームは、冬眠する動物としない動物の遺伝子を比較し、冬眠を制御する上で重要なスイッチの役割を果たすDNA領域を特定した。

 そして、遺伝子編集技術CRISPR(クリスパー)を使い、実験用のマウスでこのスイッチをオフにする実験を行った。マウスは冬眠しないが、絶食すると「トーパー」と呼ばれる、代謝や体温が低下する省エネ状態に入ることができるため、モデルとして適している。

 彼らが標的としたのは、「FTO遺伝子座」として知られる遺伝子群の近くにあるDNA領域だ。このFTO遺伝子座は、人間の体内にも存在し、肥満や関連疾患のリスクと深く関わっていることが知られている。いわば、代謝やエネルギー消費を司る「司令塔」のような場所だ。

 実験の結果は驚くべきものだった。冬眠関連のスイッチを一つオフにするだけで、マウスの体重、代謝率、そして餌を探す行動に、顕著な変化が現れたのだ。あるスイッチをオフにすると体重が増えやすくなり、別のスイッチでは代謝が低下した。

 この発見は、「FTO遺伝子座が人間の肥満に重要な役割を果たしていることを考えると、非常に有望だ」と、アラスカ大学フェアバンクス校の冬眠生物学の専門家、ケリー・ドリュー氏も高く評価している。

人間への応用—その可能性と課題

 グレッグ教授は、この結果が人間にも応用できる可能性があると強調する。「重要なのは、遺伝子そのものではなく、それらのスイッチをいつ、どのくらいの時間、どのような組み合わせでオン・オフするかです。それが種の違いを生み出しているのです」。

 しかし、専門家たちは慎重な姿勢も崩さない。カリフォルニア大学サンタクルーズ校のジョアンナ・ケリー教授は、「人間のDNAに同じ変更を加えれば済む、というほど単純な話ではありません」と指摘する。マウスが見せる絶食による「トーパー」と、動物の本格的な「冬眠」は、ホルモンや季節の変化など、その引き金となるメカニズムが異なるからだ。

 今回特定された遺伝子のスイッチは、絶食に反応する代謝の「ツールキット」の一部ではあるが、冬眠そのものをオン・オフする「マスタースイッチ」ではないかもしれない、とドリュー氏も付け加える。

人類は「冬眠」できるのか?体内に眠る“スーパーパワー”遺伝子が健康と長寿の鍵になるかもしれないの画像3
Image by LaCasadeGoethe from Pixabay

薬で「冬眠スイッチ」を操作する未来

 グレッグ教授は、将来的には薬を使って、人間の「冬眠遺伝子ハブ」の活動を微調整できる可能性があると考えている。実際に患者を冬眠させることなく、神経保護などの有益な効果だけを引き出す、というアイデアだ。

 なぜ、一部の遺伝子操作がメスとオスで異なる効果を示したのか。マウスで見られた行動の変化は、人間にどう現れるのか。まだまだ解明すべき謎は多い。

 しかし、この研究は、我々の体内に眠る未知の可能性の扉を、少しだけ開けてくれたことは間違いない。いつの日か、人類が自らの遺伝子に眠る「スーパーパワー」を自在に操り、病を克服する日が来るのかもしれない。

参考:Live Science、ほか

関連キーワード:,
TOCANA編集部

TOCANA/トカナ|UFO、UMA、心霊、予言など好奇心を刺激するオカルトニュースメディア
Twitter: @DailyTocana
Instagram: tocanagram
Facebook: tocana.web
YouTube: TOCANAチャンネル

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

人気連載

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...

2024.10.02 20:00心霊

人類は「冬眠」できるのか?体内に眠る“スーパーパワー”遺伝子が健康と長寿の鍵になるかもしれないのページです。などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

人気記事ランキング11:35更新