実在した吸血鬼 ― 胸に杭を打たれた“ヴァンパイアの墓”と、今も続く恐怖の儀式

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 ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』以来、吸血鬼(ヴァンパイア)は世界中の人々を魅了し、そして恐怖させてきた。しかし、その物語の源流には、単なる創作とは言い切れない、ヨーロッパの暗い歴史に根差した「本物の吸血鬼」へのリアルな恐怖が存在したのだ。胸に杭を打たれて埋葬された遺体、そして現代にまで続く、死者を蘇らせないための恐るべき儀式…。実在した吸血鬼たちの、7つの戦慄の事実を紐解いていこう。

蘇りを恐れ、胸に鉄の杭を―ブルガリアに眠る“吸血鬼の墓”

 2000年代初頭、ブルガリアの各地で考古学者たちは奇妙な遺骨を発見した。デベルト、ソゾポル、そしてペルペリコン。異なる場所から見つかった13世紀の骸骨には、一つの共通点があった。それは、胸に鉄の杭や棒が打ち込まれ、まるで地面に縫い付けられるかのように埋葬されていたことだ。

 中世ブルガリアでは、生前に悪人や異端者と見なされた者が死ぬと、夜な夜な墓から蘇り、人々の血を吸う「吸血鬼」になると信じられていた。そのため、彼らが二度と起き上がれないように、心臓を杭で貫くという儀式が行われていたのだ。研究者たちは、ブルガリア全土には、こうした“吸血鬼の墓”が約100基は存在すると考えている。

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ブルガリアで発見された800年前の骸骨。胸部を鉄棒で刺された状態で発見された By Bin im GartenOwn work, CC BY-SA 3.0, Link

吸血鬼伝説の起源―それは“腐敗”への無知が生んだ恐怖だった

 なぜ、人々は死者が蘇ると信じたのか。その根源には、遺体の「腐敗」という自然現象に対する、科学的知識の欠如があった。

 1732年、オーストリアの軍医ヨハネス・フリュッキンガーは、ある村で起きた奇怪な事件を調査した。アーノルド・パオレという男が急死した後、村人が次々と謎の死を遂げ、それは墓から蘇ったパオレの仕業だと噂されたのだ。村人たちが彼の墓を掘り起こし、心臓に杭を打つと、遺体はうめき声をあげて血を流したという。フリュッキンガーは、これを「吸血鬼の実在の証拠」として報告した。

 しかし、現代の科学から見れば、これは典型的な腐敗の過程にすぎない。体内に溜まったガスが声帯を震わせ、体液が口や鼻から流れ出る。冬場に埋葬されれば、遺体は数ヶ月間も生前の姿を保ち、膨張することさえある。当時の人々は、こうした現象を「死者が夜な夜な血を吸いに出かけている証拠」だと信じ込んでしまったのだ。

疫病と吸血鬼―ポーランドで見つかった“病人”の墓

 吸血鬼伝説は、ルーマニアのトランシルヴァニア地方だけのものではない。ポーランドでも、顎の下に石を詰められたり、首に鎌を当てられたりした、奇妙な埋葬方法の遺骨が発見されている。

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画像は「 Arkeonews 」より

 2014年の研究によれば、これらの“吸血鬼”とされた人々の多くは、実はコレラのような疫病の最初の犠牲者だった可能性が高いという。未知の病に対する恐怖が、彼らを死後も恐れられる存在へと変えてしまったのだ。また、18世紀のスペインで目撃された吸血鬼騒動は、狂犬病の症状―光やニンニクへの過敏症、攻撃性、不眠など―と酷似しており、これもまた病気が原因だったのではないかと考えられている。

2004年、ルーマニアで執行された“吸血鬼狩り”

 驚くべきことに、吸血鬼への恐怖は過去のものではない。ルーマニアの農村部では、今もなお、その信仰が根強く残っている。

 2004年、マロティヌ・デ・ススという村で、信じがたい事件が起きた。前年に事故で急死した男性の親族が病に倒れたのは、彼が「ストリゴイ」(生者の生命力を吸う悪霊)となって蘇ったからだと信じた村人たちが、彼の墓を掘り返したのだ。そして、古代から伝わる儀式に則り、その心臓をえぐり出し、体に杭を打ち込んだという。すると、病気だった親族は回復したと伝えられている。

 この地域では、逆子で生まれた子供は将来ストリゴイになるという迷信が今も信じられており、彼らが亡くなると、蘇らないように眼球や体に編み針を突き刺して埋葬するという。

“ドラキュラ”という名の悪魔

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Helmolt, H.F., (ed.) History of the World. New York: Dodd, Mead and Company, 1902., パブリック・ドメイン, リンクによる

 小説『ドラキュラ』のモデルは、15世紀のワラキア公ヴラド3世、通称「串刺し公」だと広く信じられている。しかし、歴史家の研究によれば、作者のブラム・ストーカーは、ヴラド公についてほとんど知らなかった可能性が高いという。彼が参考にしたのは、休暇中に図書館で借りた一冊の本。その本の余白に、彼はこうメモを残している。「ドラキュラとは、ワラキアの言葉で“悪魔”を意味する」。この言葉の響きこそが、伝説の吸血鬼伯爵を生み出したのだ。

現代に生きる“リアルヴァンパイア”たち

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画像はUnsplashVitaliy Shevchenkoより

 そして、現代。世界には、自らを「本物の吸血鬼」だと認識し、生きている人々がいる。2015年の調査によれば、彼らは、自らの心身の健康を維持するために、同意したドナーから血液やエネルギーを摂取する必要があると信じているという。ただし、彼らは棺桶で眠ったり、牙をつけたりするような「ライフスタイル・ヴァンパイア」とは一線を画し、社会的には安定した生活を送っているとされる。

 中世の恐怖から、現代のサブカルチャーまで。吸血鬼という存在は、時代と共にその姿を変えながら、今もなお私たちの心の闇に棲み続けているのだ。

参考:MENTAL FLOSS、ほか

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