『羊たちの沈黙』レクター博士のモデルとなった男。恋人を解体し、獄中で医師として君臨した「ドクター・サラザール」の正体

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 サイコスリラーの名作『羊たちの沈黙』で最も不気味な登場人物、ハンニバル・レクター博士にはモデルとなる実在の人物がいた――。

■レクター博士のモデルとなった殺人犯

 トマス・ハリスの1988年の小説『羊たちの沈黙』は映画化され日本でも大ヒットしたが、アンソニー・ホプキンスが演じたハンニバル・レクター博士は映画史上最も恐ろしいキャラクターの一人となったと言える。

 このレクター博士のモデルとなった実在の人物がいるのだろうか。

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 ハリスは1960年代にメキシコのモンテレーにあるヌエボ・レオン州立刑務所を訪問した際、ある「医師」に会ったことを明かしている。当時、ハリスは23歳のジャーナリストで、殺人罪で有罪判決を受けたアメリカ人、ダイクス・アスキュー・シモンズに関する記事を手がけていた。

「ドクター・サラザール」と呼ばれていたその医師は、ハリスによって「暗赤色の髪をした小柄でしなやかな男」と描写され、「ある種の優雅さ」を漂わせていた。これはレクター博士にも見られるさりげない特徴であるといえなくもない。またレクター博士と同様、サラザールもリトアニア系である。

 刑務所内で医師として振る舞っていたサラザールは実は服役中の殺人犯、アルフレド・バッリ・トレビーニョであった。彼は1959年、医療研修医だった恋人を殺害し、その後、恋人を箱に詰めるために入念に切り刻み、叔母の牧場の裏庭に埋めようとしたのである。

 裕福で名家の出身である彼は、数人のヒッチハイカーを殺害し、遺体を切断した容疑もかけられていたが、これらの容疑は法廷で証明されることはなかった。

 彼は一度脱獄を図ったが失敗し、その後は刑務所内でドクター・サラザールとして振る舞うようになったのだ。

 1961年に死刑判決を受けたサラザールは、刑務所内で非公式の診療所を開設し、獄中の人々を診察するとともに、時には訪問医として近隣住民宅も訪れていたという。

 1981年、死刑判決を受けてから20年後、驚くべきことにサラザールは刑務所から釈放され、社会の中で自由に行動することが許されたのである。

 ハリスによればレクター博士がすなわちサラザールではないが、キャラクター作りに重要な影響を及ぼしていたようだ。そしてレクター博士のモデルになった人物はほかにも複数人いるという。

 ハリスと知り合いだった殺人課刑事のグループは、1999年の「タルサ・ワールド」紙の記事で、レクター博士は悪名高い連続殺人犯のエドマンド・ケンパー、テッド・バンディ、そして佐川一政が融合したような人物であると言及している。

 もう一人の人肉食殺人犯、ウィリアム・コイナーも犠牲者の遺体を塩漬けにして保存していたとされ、レクター博士のモデルになったと考えられている。

 また連続殺人犯のアルバート・フィッシュも、レクター博士のモデルになったと言われている。フィッシュは、被害者の少女の母親に手紙を書き、娘を殺害し、その後食べた経緯を詳細に説明したと伝えられている。当時の科学捜査技術がまだ十分に進歩していなかったため、彼の主張が真実であったかどうかは不明である。

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 映画『羊たちの沈黙』は、1991年2月14日に公開されてから35年が経ち、製作費1900万ドル(約30億円)に対し、世界興行収入2億7270万ドル(約418億円)を記録した。レクター博士を演じたアンソニー・ホプキンスはアカデミー主演男優賞を受賞し、FBI訓練生のクラリス・スターリングを演じたジョディ・フォスターもアカデミー主演女優賞を受賞している。

 ジョナサン・デミ監督のこの映画は、カルト的な人気を博した一方、長年にわたりジェンダーアイデンティティの描写をめぐって厳しい批判にさらされてきた経緯もある。テッド・レヴィンが演じたバッファロー・ビルが、トランスジェンダーコミュニティに対する悪意あるステレオタイプを助長していると多くが指摘している。またFBIという“男社会”を舞台にした作中のジェンダーに関する描写も、幾度となく批判にさらされてきた。

 それでも本作はホラーを超えたサイコスリラーとしては時代を劃した傑作であることは間違いない。初めて観た時の衝撃を思い出すためにもう一度観返してみてもよいのだろう。

参考:「Express」ほか

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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