【TOCANA的UMAファイル #17】「ツチノコ」── 懸賞金は億超え、正体探しは振り出しに戻り続ける

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 ある町がかつて設定した懸賞金は、町の年間税収とほぼ同額だったと伝わる。捕まえれば町の財布が空になりかねない金額を、日本各地の自治体はもう半世紀近く積み続けている。相手は体長30〜80センチ、ビール瓶のように太った蛇――ツチノコだ。これだけの本気度にもかかわらず、”これぞ本物”と確定した個体は、いまだかつて一匹も見つかっていない。

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基本データ

名前:ツチノコ(槌の子)。地域によって「バチヘビ」「ノヅチ」などとも呼ばれる

生息地:全国各地。目撃の多発地帯として岐阜県東白川村、兵庫県但馬地方などが知られる

初出:『古事記』にみえる「野槌(のづち)」が古い呼称とされ、1712年の百科事典『和漢三才図会』には「野槌蛇」として、深い山奥に棲み、柄のない横槌に似た姿の生き物が記されている。現代の”ツチノコブーム”は1973年、漫画家・矢口高雄が秋田県南部を舞台にした『幻の怪蛇バチヘビ』(『週刊少年マガジン』連載)を発表したのがきっかけと伝わる

姿:太い胴に三角形の頭、細い首と尾を持つというのが定番の証言だが、体長30センチ〜2メートル、瞼の有無、ジャンプ力2〜10メートルなど、資料によって証言の幅は大きい

由来:太さの割に短い胴の形が、藁打ちなどに使う道具「横槌」に似ていることから、この名がついたという

事件簿

 火をつけたのは矢口高雄だった。1973年、地元・秋田でツチノコ捜索に挑む実話漫画『幻の怪蛇バチヘビ』が評判を呼び、全国に「バチヘビ=ツチノコ」ブームを巻き起こす。

 これに乗る形で1989年、岐阜県東白川村が動いた。生け捕りに成功すれば懸賞金100万円、しかも捕まらない年は毎年1万円ずつ積み増すキャリーオーバー制を導入したのだ。以来35年、賞金は膨らみ続け、2024年開催の「つちのこフェスタ」では132万円に到達。村の人口を上回る2500人が山狩りに繰り出したが、この年も見つからなかった。

 さらに気前がよかったのが、1992年に懸賞金2億円を打ち出した兵庫県千種町(現・宍粟市)である。当時の町長が新聞記者に語ったところによれば、この金額は町の年間税収とほぼ同じだったという。結局、町村合併とともに賞金制度そのものが消滅し、今は道の駅ちくさに1.7メートルの木製オブジェが往時を偲ばせている。

ホントカナ?

 正体候補は昔から手堅い顔ぶれだ。2007年、山形県大蔵村の牧場で干し草の中から見つかった”ツチノコ”の死骸は、その干し草がオーストラリア産だったことから、日本蛇族学術研究所が猛毒ヘビ・デスアダーの可能性を指摘したと伝わる。ほかにも、四肢が胴の下に隠れて見えにくいマツカサトカゲとの誤認説、妊娠や捕食で腹の膨れたヤマカガシやニホンマムシ、ヒメハブなど毒蛇の誤認説も根強い。

 2022年7月には、兵庫県三木市の民家で撮影された”ツチノコらしき生物”の写真を兵庫県立人と自然の博物館の太田英利主任研究員が鑑定したところ、正体はビロードスズメという蛾の幼虫だったという。太田研究員は「文献で見たことがない。新たな間違い例」と驚き、「人間の想像力はたくましい」と評したと報じられている。

 奇妙なのはここからだ。半世紀近く、専門家が一件ずつ丁寧に正体を暴いてきたにもかかわらず、いまだかつて”これぞ本物”と確定した個体は一匹も存在しない。しかも”ツチノコ”というカテゴリーに紛れ込む生き物の顔ぶれは、爬虫類から昆虫の幼虫にまで広がるばかりで、一向に一つへ絞り込めない。デスアダーの見間違いと、マツカサトカゲの見間違いと、蛾の幼虫の見間違いとでは、そもそも見ている生き物の種類からして違う。半世紀分の目撃者たちは、いったい何を見て「これはツチノコだ」と確信したのか――鑑定が進むほど、その一点だけが深く分からなくなっていく。

Toriyama Sekien (鳥山石燕, Japanese, *1712, †1788) – scanned from ISBN 4-336-03386-2., パブリック・ドメイン, リンクによる

TOCANA的まとめ

 捕まえれば大金、捕まえられなくても村おこしになる。ツチノコをめぐる懸賞金は、そんな仕組みとして各地に根づいている。東白川村のフェスタに毎年2500人が集まり、千種町が身の丈を超えた2億円を掲げてでも挑んだのは、見つかるかどうかより「本気で探せる何か」が町にあること自体に価値があったからかもしれない。半世紀分の懸賞金の総額は、この国がどれだけ本気で一匹の蛇を愛してきたかの記録でもある。

トリビア

 新潟県糸魚川市の能生地区では2006年から「つちのこ探検隊」が毎年開催されており、生け捕りの懸賞金は全国最高クラスの1億円。目撃情報の提供だけでも、名物「つちのこ饅頭」がもらえるという。

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