【TOCANA的UMAファイル #11】「件(くだん)」── 外れたことがないはずの予言獣が、一度だけ盛大に外した話

【TOCANA的UMAファイル #11】「件(くだん)」── 外れたことがないはずの予言獣が、一度だけ盛大に外した話の画像1
イメージ画像 Created with AI image generation

 人間の顔をした子牛が生まれる。生後まもなく人の言葉で未来を告げ、数日のうちに息絶える──江戸時代から令和まで、日本人はこの奇妙な獣の噂を繰り返し聞かされてきた。予言獣・件(くだん)の代名詞はただひとつ、「百発百中」。だが実はこの獣、国の命運を左右するほど大きな予言を、一度だけ盛大に外している。

連載中:TOCANA的UMAファイルを読む

基本データ

名前:件(くだん)。「人」偏に「牛」と書く漢字がそのまま名になったとされる。越中立山に現れたと伝わる類似の存在「くたべ」もいる

生息地:特定の一湖・一山ではなく、丹後国から長崎・五島列島、神戸、さらには戦時下のブラジル日系移民社会まで、各地の牛小屋からそのつど生まれてきたと伝わる

初出:江戸後期の記録には諸説ある。1705年(宝永2年)に丹後国・倉橋山に現れたとする説や、1819年(文政2年)に防州上ノ関の牛から生まれたとする記録もあるが、広く知られるきっかけになったのは1836年(天保7年)、同じ倉橋山に出たと伝える瓦版だった

姿:人間の顔と牛の体を持つ「人面牛身」が基本形

由来:生まれてすぐ人語で予言を告げ、数日で死ぬ。証文の末尾に書く決まり文句「件の如し」こそがこの獣の実在の証だ、と当の瓦版が説明している

事件簿

 1836年の瓦版は、丹後国倉橋山に現れた件を「大豊作を知らす獣」と紹介し、この絵姿を貼っておけば家内繁盛・疫病除けになると説いた。

 明治末期の新聞は、その十年ほど前に長崎・五島列島の農家で人面の子牛が生まれていたと報じている。生後31日で「日本はロシアと戦をする」と予言して息絶えたその牛は剥製にされ、長崎市内の博物館に陳列された。数年後、日本とロシアは実際に戦火を交えることになる。もっとも博物館は後に閉館し、剥製の行方は今も分かっていないという。

 太平洋戦争末期の昭和20年(1945年)春には、神戸で件が生まれ「3日以内に小豆飯を食べた者は空襲を免れる」と予言した、との噂が人々のあいだを駆けめぐった。

ホントカナ?

 正体候補としてよく挙がるのは、先天的な異常で人間のような顔立ちの子牛が生まれ、それを見た人々の不安がそのまま”予言獣”の物語に仕立てあげられた、という説だ。中国伝来の瑞獣「白澤(白沢)」の図像がルーツという説もある。

 もっとも件の最大の謎は、正体そのものより”実績”のほうにある。件は「一度も予言を外したことがない」と語り継がれてきた。ところが1944年、ブラジル・マリリア地方の日系移民のあいだに広まった噂では、生まれたばかりの件子(くだんご)が「戦争は枢軸側の大勝利で終わる」と告げたとされる。

 翌1945年8月、日本は降伏した。それでもこの外れた予言は、現地で「敗戦の知らせは嘘だ」と信じ続けた、いわゆる”勝ち組”の理屈のひとつとして生き延び、日系社会を長く引き裂く対立の種にすらなったと伝わる。百発百中の看板を掲げた獣が、国の命運を占う最大の一発だけを外し、それでもなお”当たる獣”として語られ続けているのはなぜなのか。

【TOCANA的UMAファイル #11】「件(くだん)」── 外れたことがないはずの予言獣が、一度だけ盛大に外した話の画像2
『白沢避怪図』(1785年) / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

TOCANA的まとめ

 件は、一つの湖や山に棲みついた怪獣ではない。幕末の政変前夜、日露戦争の前夜、太平洋戦争の末期、そして海を渡った移民社会の動揺期──日本人が「次に何が起きるのか」を一番知りたがった瞬間に、そのつど新しい牛小屋から生まれ直してきたのだ。

 ルーツと伝わる丹後・倉橋山は、隣にそびえる天橋立の陰でひっそり佇む小さな山だという。宝永の昔にそこで語られたひとつの逸話が、二百年以上かけて日本中、そして海の向こうにまで育っていったのだと思うと、その静かな山あいに一度足を運んでみたくなる。

【TOCANA的UMAファイル #11】「件(くだん)」── 外れたことがないはずの予言獣が、一度だけ盛大に外した話の画像3
丹後倉橋山の件を描いた天保7年(1836年)の文献 / Public Domain / Wikimedia Commons

トリビア

 件という字が「人偏に牛」であることは、天保の瓦版自身が”この獣が実在する証拠”として得意げに書き添えた由来だった。ところが証文の決まり文句「件の如し」は、平安時代の『枕草子』にすでに登場している。件が江戸の空の下で目撃されるより、何百年も前から存在していた言葉なのだ。妖怪の実在を証明するはずの由来が、実は妖怪より先に生まれていた──という笑えない話。

ほかの「TOCANA的UMAファイル」もあわせてどうぞ → 記事一覧はこちら

関連キーワード:, ,
TOCANA編集部

TOCANA(トカナ)は、「ホントカナ?」を編集方針に、UFO・UAP、UMA、心霊、予言、超古代文明、都市伝説など世界の「謎」を追うオカルトニュースメディア。2013年の開設から13年、公開記事は2万本以上。
Twitter: @DailyTocana
Instagram: tocanagram
Facebook: tocana.web
YouTube: TOCANAチャンネル

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

人気連載

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】

現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...

2024.10.02 20:00心霊

【TOCANA的UMAファイル #11】「件(くだん)」── 外れたことがないはずの予言獣が、一度だけ盛大に外した話のページです。などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

トカナ秘密結社購買部