【TOCANA的UMAファイル #03】「喋るマングース、“ジェフ”」 ── 誰も見ていない、自称・世界で八番目の不思議

1930年代、イギリス・マン島の辺境の農場で、壁の奥から声がしたという。声の主は「ジェフ」と名乗り、自分はインド生まれで齢80、原子を分裂させることもできる「世界で八番目の不思議」だと豪語したという。ところが、はるばる海を渡ってやってきた本職の心霊研究者たちの前では、あれほど雄弁だったはずのジェフは、判で押したように口を閉ざしたという。
基本データ
名前:ジェフ(Gef)。「ダルビーの幽霊」とも呼ばれたという
生息地:イギリス・マン島、ダルビー近郊の農場「ドーリッシュ・キャッシェン」
初出:1931年9月ごろ
姿:ネズミほどの大きさで、黄色みを帯びた毛と太いフサフサの尾、人間のような手を持つマングース型。実際に姿を見たと語る者はほとんどおらず、農家の娘ヴォーレイ・アーヴィングの証言に頼るところが大きかったという
由来:本人(?)曰く、1852年6月7日インド・ニューデリー生まれ。「新種でも珍獣でもなく、マングースの姿をした地縛霊だ」と自称したと伝わる
事件簿
1931年9月、マン島ダルビー近郊の農場「ドーリッシュ・キャッシェン」に暮らすアーヴィング一家は、壁の奥から爪で引っかくような音、続いてうなり声を聞くようになったという。
まもなくその声は言葉を話しはじめ、「ジェフ」と名乗ったという。「自分は原子を分裂させられる」「自分は世界で八番目の不思議だ」――そう豪語する一方で、家族のためにウサギを狩ってきたり、朝寝坊を起こしたりと、律儀に家事も手伝ったという。
騒ぎは新聞にも載り、1935年、幽霊屋敷やインチキ超能力の暴露で名を馳せた心霊研究家ハリー・プライスと、BBCの雑誌編集者R・S・ランバートが調査にやってきた。
ところが、あれほど雄弁だったはずのジェフは、二人の滞在中ひと言も発しなかったという。持ち帰った毛はアーヴィング家の牧羊犬「モナ」のものと一致し、プライスは農場の壁が二重構造で音が通りやすい点を指摘、「もっとも信じやすい人間しか納得させられないだろう」と結論づけたと伝わる。
1937年には、ハンガリー出身の心霊研究家ナンドール・フォダーが1週間泊まり込みで調査した。だが、これもまた声どころか姿さえ確認できなかったという。それでもフォダーは「あらゆる確率はこれに反しているが、あらゆる証拠はこれを裏付けている」という、なんとも煮え切らない言葉を残して島を去ったそうだ。そしてこの騒動は、思わぬ形で法廷にまで飛び火することになる


ホントカナ?
正体候補として最有力なのは、娘ヴォーレイによる腹話術と一家の共謀説である。父親が客の注意をそらす隙に、ヴォーレイ自身が声を出しているところを地元紙の記者が目撃した、との報道も伝わる。プライスが指摘した二重壁の“伝声管”構造も、この説を後押しする。
だが、この一件には決定的な矛盾がある。「原子を分裂させられる」「世界で八番目の不思議だ」――あれほど大言壮語していたはずのジェフが、わざわざ海を渡ってきた本職の調査員の前では、申し合わせたように黙り込むのだ。
それなのに、ジェフの実在を信じたランバートが、ある貴族に「頭がおかしい」と公然と評されたことを名誉毀損で提訴すると、当時としては破格の7600ポンドの賠償を勝ち取ってしまった。この裁判は「マングース裁判」として、今も名誉毀損法の判例に名を残しているという。
一度も第三者の前で鳴き声すら立てなかった生き物をめぐる争いが、なぜか英国の法廷で現実の勝敗を分けてしまった――それがジェフ最大の矛盾である。
TOCANA的まとめ
たった一軒の農家の“内輪ネタ”だったはずの話が、なぜ90年以上たった今も語り継がれているのか。理由は単純で、信じる/信じないの綱引きに、新聞、心霊研究家、BBC、そして法廷までもが本気で参加してしまったからだろう。誰も正体を見届けられなかった小さな獣が、遠く離れた島の片隅を90年以上にわたって語り草にし続けている――ジェフの正体は、案外そこにあるのかもしれない。
トリビア
アーヴィング家が農場を去った後、新しい所有者は1946年、「ジェフを撃ち殺した」と発表した。だが持ち込まれた死骸は毛色も体格もまるで別物で、ヴォーレイ本人に「絶対にジェフじゃない」と即座に却下されたという。懲りない所有者は翌1947年、今度はイタチともオコジョともフェレットともつかない謎の獣を仕留め、「あらゆる特徴に当てはまる」と胸を張って語ったと伝わる。
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