【TOCANA的UMAファイル #15】「ナカちゃん」── 正体は即日判明、死因だけが謎のまま残った“未確認生物”

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 2005年11月、徳島県阿南市の那賀川に、一匹のアゴヒゲアザラシが迷い込んだ。地元はわずか数日で正体を突き止め、名前を「ナカちゃん」と決めると、あろうことか役場の窓口で特別住民票まで発行してしまう。未確認生物ファイルに名を連ねる生き物の中でも、これほど早く”確認”されてしまった例はそうそうない。なのに翌年、その亡骸を解剖した専門家たちは、死因という一点にだけ、最後まで答えを出せなかった。

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基本データ

名前:ナカちゃん(特別住民票上の氏名は「那賀川 ナカちゃん」)

生息地:本来はオホーツク海・ベーリング海など北極圏の流氷域。2005年11月、徳島県那賀郡那賀川町(現・阿南市)の那賀川中州に姿を現した

初出:2005年11月2日

姿:メスのアゴヒゲアザラシ。死亡時の計測で全長188センチ、胸回り110センチ、体重は約100キロ

由来:出現した那賀川の川名から、そのまま「ナカちゃん」

事件簿

 2005年11月2日、那賀川の中州にアゴヒゲアザラシが現れたとの一報が地元を駆け巡った。北極圏の流氷とともに暮らすはずの生き物がなぜ四国の川にいるのか、その南下ぶりは専門家の間でも異例とされたが、住民の反応は戸惑いより歓迎が勝った。

 連日堤防に見物客が詰めかけ、11月14日から18日にかけては那賀川町役場の窓口で特別住民票が約3万6000枚発行された。氏名欄には律儀に「那賀川 ナカちゃん」と記され、人気にあやかったオリジナルソングや音頭、ちなんだパンまで売り出される騒ぎになった。市町村合併後は阿南市の特別名誉市民にもなっている。

 だが人気は長く続かなかった。出現から299日後にあたる2006年8月27日、ナカちゃんは那賀川右岸の中州で死骸となって発見される。翌28日朝、遺体は阿南警察署からとくしま動物園へ運ばれ、9時45分に到着。外観確認とレントゲン検査を経て、11時に解剖が始まった。立ち会ったのはとくしま動物園の獣医・城翠氏ら7人に加え、大阪・海遊館の飼育展示担当者まで駆けつける本格ぶりだった。

ホントカナ?

 この連載では毎回、正体候補をめぐって伝承派と懐疑派、双方の見立てを紹介するのがお約束だ。ところがナカちゃんに限って、その手の”論争”は一切存在しない。発見翌日には種まで特定され、名前も住民票も与えられていた。未確認生物ファイルに載る資格すら怪しいほど、”確認済み”な生き物なのである。

 矛盾が生まれるのは、むしろここからだ。12時35分に終わった解剖の所見はこうだった。骨に異常なし、内臓は腐敗が進み判別不能、胃の中は空、栄養状態は悪くない。そして肝心の頭部の傷については「死後のものか死前のものかは判別できず、死に至った原因かどうかも判らなかった」というのが行政連絡会名義の公式結論である。世間では暑さや疲労によるショック死説が語られたが、あくまで推測の域を出ない。動物園・国土交通省・警察・消防まで動員した”総力戦”の解剖をもってしても、死因は一つに絞り込めなかったのだ。

 正体はものの数日で割れたのに、死因だけは専門家の総力を挙げても解けなかった。ナカちゃんというUMAにおいて、いまだ”未確認”なのは生きていた姿ではなく、死んだ理由の方だけなのだ。

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ナカちゃん (2006年6月24日)spaceaero2 -, CC 表示 3.0, リンクによる

TOCANA的まとめ

 2005年11月の見物客の列も、2006年8月の突然の別れも、那賀川の住民にとっては同じ一つの出来事として記憶されている。2007年5月には、彫刻家・福島隆資氏の手による等身大モニュメント「追懐」が河川敷に建てられた。像の前に立てば、あの秋に堤防を埋めた人々の熱気が、いまも伝わってくるはずだ。

 たった299日、しかも正体は最初からわかりきっていた一匹のアザラシに、なぜこれほどの熱狂と、これほどの喪失感が生まれたのか。那賀川という土地が向き合っていたのは未確認生物への好奇心ではなく、遠い北の海から迷い込んできた小さな命そのものだったのだろう。那賀川のほとりに立ち寄る機会があれば、あの石像に会いに行ってみてほしい。

トリビア

 ナカちゃんの解剖立会人の記録には、大阪・海遊館の飼育展示担当者の名前まで残っている。ジンベエザメで知られる西日本屈指の水族館が、一匹の”川に迷い込んだアザラシ”の死因究明にわざわざ駆けつけていたという事実だけでも、当時の騒動の大きさがうかがえる。

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