【TOCANA的UMAファイル #05】「オジャッシー」 ── 白蛇の女神が棲むという池に、ある夏まったく別の”怪物”が現れた

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 千葉・雄蛇ヶ池には、江戸時代の初めから、この池に嫁いだ白蛇の女神が棲むと伝わる。ところが1981年のある夏、池の水面を埋め尽くしたのは、女神でも大蛇でもなく、ゴルフボールのような凸凹肌をした砂色の巨大ゼリー塊だった。地元はこれに、女神の名でも大蛇の名でもなく、遠い異国の湖の怪獣にちなんで「オジャッシー」と名付けたという。
 
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基本データ

名前:オジャッシー。池の名「雄蛇ヶ池」に、ネッシー以来の”ご当地怪獣”命名の慣習にならって「ッシー」を足した愛称だという

生息地
:千葉県東金市・雄蛇ヶ池。江戸時代の慶長9〜19年(1604〜1614年)、代官・嶋田伊伯の指揮のもと10年がかりで築かれた灌漑用の人工池で、周囲は約4〜4.5km

初出
:1981年、池の水面に謎のゼリー状生物が大量発生し話題になったと伝わる。翌1982年には専門誌『遺伝:生物の科学』にも報告例が掲載されたという

姿
:半透明で全体が砂色、表面はゴルフボールのようにデコボコしたゼリー状の塊。房状に増殖し、大きいものは一抱えほど、条件次第では直径60センチを超え、長さ2.8メートルに達したという報告もあるという

由来
:池の名「雄蛇ヶ池」自体、この地に棲むとされた蛇神・白蛇にまつわる伝説に由来するという。一方「オジャッシー」の名は、その伝説とは関係なく、1970年代以降に定着した”ネッシー式”ご当地怪獣ネーミングの流れでつけられたとみられる

事件簿

 雄蛇ヶ池には、池が造られる前からこの地の沼に蛇神が棲んでいたという言い伝えが残る。造営を指揮した代官の夢に蛇神が現れて工事を促した、あるいは身分違いの恋に悲観した娘が入水して白蛇に姿を変えた、という伝説が伝わる。夜な夜な意識をなくして池のふちへ向かっていた娘は、ある晩、草履だけを残して姿を消した。両親が池の周りを七周すると、水中から大蛇が姿を現し、娘は二度と戻らなかったという――そんな話まで語り継がれている。

 そんな由緒ある池に、1981年、まったく毛色の違う”怪物”が出現した。水面を覆った砂色のゼリー塊は地元でたちまち話題となり、テレビや新聞でも報じられた。人々はこれを「雄蛇ヶ池」にちなみ「オジャッシー」と呼んだ。

 その正体は、ほどなく外肛動物の一種「オオマリコケムシ」の群体と判明する。個体は1ミリ前後とごく小さいが、群体になると寒天質を分泌しながら房状に膨張していく。日本では1972年に山梨県の河口湖で初めて確認され、翌1973年には精進湖でも多数出現した、当時としては比較的新しい外来生物だった。

オオマリコケムシの群体 Jomegat投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ホントカナ?

 正体候補について、ここは珍しく議論の余地が少ない。オオマリコケムシ説は1982年には専門誌『遺伝』にも報告例が載るほど固まっており、他の候補が並び立つ余地はほとんどない。

 だが、正体が判明してもなお残る違和感がある。雄蛇ヶ池には、蛇神・白蛇をめぐる数百年分の伝説がすでに積み上がっていた。にもかかわらず、この池が全国区の知名度を得たきっかけは、その伝説とは何の縁もゆかりもない、数年前に海の向こうから入り込んだばかりの生物のほうだった。

 しかも名付け方まで、地元の蛇神ではなくスコットランドの湖の怪獣にあやかっている。数百年かけて語り継がれてきた女神の物語より、たった数年前に輸入されたばかりの怪獣ネーミングのほうが、結局この池の”顔”になってしまった――それがオジャッシー最大の矛盾である。

TOCANA的まとめ

 正体が外来生物だったとしても、四百年分の女神伝説を抱えてきた池が、その伝説とは無縁の”新参者”にまで「オジャッシー」という名を与え、令和のいまも語り継いでいる事実は変わらない。古い神話と、語呂の悪い借り物のニックネームが同じ池の上で共存している──その節操のなさこそが、この土地の懐の深さなのだろう。雄蛇ヶ池は今もバス釣りやハイキングで人が集う場所であり、白蛇の伝説とオジャッシーの伝説、両方を確かめに行ける池である。

トリビア

 1982年、この一件は生物学の専門誌『遺伝:生物の科学』にまで論文として取り上げられている。しかもその論文タイトルがそのまま「雄蛇ケ池のオジャッシー それはオオマリコケムシ」。”UMA”を名乗っておきながら、タイトルの後半でいきなり正体を明かしてしまうという、身も蓋もなさがすでに完成されている。
 
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TOCANA編集部

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