第二次大戦下、記録から消えた“謎の肉塊”の正体とは? UMA「ロングビーチ・グロブスター」の謎

1943年、第二次世界大戦の真っ只中。アメリカ・カリフォルニア州のロングビーチの海岸に、ある日、正体不明の巨大な漂着物が打ち上げられた。それは、頭部も骨格も見当たらない、白っぽい繊維質に覆われた巨大な肉塊。強烈な悪臭を放つその物体は、後にUMA(未確認生物)愛好家たちの間で「ロングビーチ・グロブスター」と呼ばれるようになる。
しかし、この奇怪な事件には、決定的な証拠が何一つ残されていない。写真も、公式な調査記録も、採取されたサンプルも、すべてが存在しないのだ。戦争という混乱の時代に現れ、人々の記憶の片隅にだけ生き続ける謎の漂着物。その正体は一体何だったのだろうか。
「グロブスター」とは何か?目撃された“怪物”の姿
「グロブスター」とは、世界各地の海岸に漂着する正体不明の有機物の塊を指す俗称だ。その多くは、明確な頭部や目、骨格構造を持たず、一見すると生物とは思えない異様な姿をしている。
ロングビーチに現れたグロブスターも、その典型だった。目撃者の断片的な証言によれば、それは巨大な肉の塊で、識別できる頭部はなく、まるで繊維のような、あるいは奇妙な「毛」のようなもので覆われていたという。そして何より、耐え難いほどの腐敗臭をあたりにまき散らしていた。
なぜ、これほど奇怪な物体の記録が残っていないのか。その最大の理由は、時代背景にある。1943年当時、アメリカは第二次世界大戦の渦中にあり、新聞の紙面を飾るのは戦況を伝えるニュースばかり。海岸での奇妙な発見は、人々の関心を引く優先事項ではなかったのかもしれない。結果として、この事件は公的な記録の網の目をすり抜け、伝説として語り継がれることになった。

正体はクジラの死骸か?科学が解き明かす「怪物」の正体
このミステリアスなグロブスターの正体について、現代の科学は極めて合理的な説明を用意している。それは、クジラや大型のサメといった巨大な海洋生物の死骸であるという説だ。
巨大なクジラの死骸は、海中を漂い、海底で分解される過程で、その姿を大きく変える。まず、腐敗や海洋生物の捕食によって頭部やヒレなどが失われる。そして、皮膚や脂肪が剥がれ落ちると、その下にあるコラーゲンの強靭な結合組織がむき出しになる。このコラーゲン繊維が、海水中でほぐれて繊維状になることで、目撃者が語る「毛のようなもの」に見えるのだ。
骨格が見当たらないのも、腐敗によって肉から分離し、すでに失われてしまったからだと考えられる。世界中で報告されるグロブスターの多くは、DNA鑑定によってクジラやウバザメの死骸であることが判明している。ロングビーチ・グロブスターもまた、巨大なクジラが自然の力によって変貌した姿だった可能性が高い。
※1943年4月10日付『オレゴニアン』紙に掲載された、謎の“グロブスター”を描いた異色の想像再現図
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なぜミステリーとして語り継がれるのか
科学的な説明がつく一方で、この事件が今なお人々を魅了するのは、その背景に存在する「完全な記録の欠如」という謎があるからだ。なぜ、誰一人として写真を撮らなかったのか?なぜ、公的な報告書が存在しないのか?この空白が、「何か特別な理由で隠蔽されたのではないか」という憶測を呼ぶ。
また、この“怪物”が現れた1943年という時代も無視できない。世界が戦争という混沌に沈み、人々が先の見えない不安の中に生きていた時代。海が吐き出した名もなき巨大な肉塊は、そんな時代の漠然とした恐怖や、崩壊しつつある自然の秩序を象徴する「時代の鏡」として、人々の心に刻まれたのかもしれない。
物的証拠が何一つ存在しない以上、ロングビーチ・グロブスターの正体を100%断定することは、もはや不可能だ。それは、ただのクジラの死骸だったのかもしれない。あるいは、まだ我々が知らない、海の未知なる一面が垣間見えた瞬間だったのかもしれない。
確かなのは、この名もなき漂着物が、海の広大さと、我々の知識の限界を突きつける、魅力的なミステリーとして、これからも語り継がれていくだろうということだ。
参考:Mysterium Incognita、ほか
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2024.10.02 20:00心霊第二次大戦下、記録から消えた“謎の肉塊”の正体とは? UMA「ロングビーチ・グロブスター」の謎のページです。UMA、グロブスターなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで