【TOCANA的UMAファイル #18】「トランコ」 ── シャチと3時間戦った“頭のない”白い怪物、誰にも調べられないまま海へ帰る

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 南アフリカの海辺の町マーゲイトの沖で、2頭のシャチを相手に3時間も戦い続けた怪物がいたと伝わる。全身は雪のように白い毛に覆われ、頭はなく、代わりにゾウのような鼻が垂れ下がっていたそうだ。打ち上げられた亡骸は10日間も浜辺に横たわっていたのに、調べに来た科学者はひとりもいなかった。

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基本データ

名前:トランコ(Trunko)

生息地:南アフリカ・クワズール・ナタール州マーゲイトの沖合(インド洋)

初出:1920年代前半。英デイリー・メール紙は1924年10月の出来事として報じたが、地元の町史では1922年とされており、年代は割れている

姿:体長およそ14メートル。20センチほどの白い毛にびっしり覆われ、頭部はなく、長さ1.5メートルほどのゾウのような鼻と、3メートルほどの尾を持っていたとされる

由来:英語の「trunk(ゾウの鼻)」から。動物学者カール・シューカーが1996年の著書で付けた愛称で、事件から70年以上、この怪物には名前すらなかった

事件簿

 ある朝、マーゲイトの沖合で、2頭のシャチが見たこともない白い生き物と争っているのが目撃された。目撃者のひとりで、この土地の地主でもあったヒュー・バランスは、その姿を「巨大なホッキョクグマ」のようだったと語ったという。生き物は尾でシャチに反撃し、水面から6メートルほども体を持ち上げたとも伝わる。戦いはおよそ3時間に及んだ。

 やがて力尽きた生き物は、マーゲイトの浜に打ち上げられた。体長14メートル級の白い毛の塊で、頭のあるべき場所には鼻のような器官がぶら下がり、体には血がまったく残っていなかったとも語られる。だが亡骸は10日間(町史では2週間)浜辺に置かれたまま、ついに誰の調査も受けなかった。そして10日目の晩、潮がそれを沖へ連れ去っていった。

 長らく、この怪物の写真は存在しないとされてきた。地元の町史にも「写真1枚、スケッチ1枚残されなかった」と記されている。ところが2010年、ドイツの研究家からの情報をきっかけに、シューカーが浜辺の亡骸を写したとされる写真を探し当てる。撮影者はヨハネスブルグの記者A・C・ジョーンズ。しかもその写真は、ほかならぬマーゲイトの地元商業団体のウェブサイトに掲載されていたそうだ。90年近く「存在しない」はずだった証拠は、地元でひっそり公開されていたことになる。

※画像の1枚は英語版Wikipediaに掲載されている。
https://en.wikipedia.org/wiki/Trunko

ホントカナ?

 正体候補の筆頭はグロブスターだ。クジラなどの死骸が腐敗し、ほぐれた脂肪や繊維が白い毛のように見える肉塊のことで、世界各地の海岸で「謎の怪物」として騒がれてきた。写真を見たシューカー自身も、古生物学者ダレン・ナイシュも、大型の脊椎動物、おそらくクジラの腐乱死体だろうとの見方を示している。頭がないのも、血が残っていないのも、腐った肉の塊なら説明はつく。

 だが、この説には大きな穴が残る。グロブスターとは、死んでからかなりの時間がたった肉の塊だ。では、浜に打ち上がる前に2頭のシャチを相手に3時間も立ち回り、尾で反撃し、6メートルも宙に躍り上がっていたのは何だったのか。死骸は戦わない。写真が「浜辺の亡骸」の正体に近づけば近づくほど、「海で戦っていた生き物」の正体は遠のいていく。シャチが漂う死骸をもてあそぶ姿が、激闘に見えたのか。それとも、海で戦っていたものと浜に打ち上がったものは、はじめから別物だったのか。10日間も誰ひとり調べなかった以上、答え合わせの方法はもう残っていない。

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クジラの死骸と特定されたグロブスター「セントオーガスティンの怪物」Public Domain, Link

TOCANA的まとめ

 マーゲイトの歴史は、トランコと切っても切れない。ヒュー・バランスがこの海辺の農場を手に入れたのは1919年。美しい浜辺に惹かれて買ったものの農業には向かず、1921年には土地を区画に分けて行楽客向けに売り出した。だが交通の便が悪く、売れ行きは伸び悩んでいたという。そこへ舞い込んだのが、この怪物騒動だった。

 地元の町史は、この一件が町の名を広め、人を呼び寄せたと記している。売り出し中の地主が第一目撃者だったことから、宣伝のための脚色を疑う声もあるそうだ。だが真相がどうであれ、怪物が波にさらわれたあとも、マーゲイトの浜には人が集まり続けた。いまや南アフリカを代表する海辺のリゾートのひとつである。誰にも調べられなかった怪物は、調べられなかったからこそ、100年たった今も町の始まりの物語として語り継がれているのかもしれない。

トリビア

 事件を報じたデイリー・メール紙の見出しは「Fish Like A Polar Bear(ホッキョクグマのような魚)」だった。白い毛皮にゾウの鼻を持つ怪物を、新聞は「魚」と呼んでいたのである。

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