【TOCANA的UMAファイル #10】「イエティ」 ── 突き止めようとするたびに、証拠のほうが行方不明になる雪男

1959年、ロンドン近郊の空港の税関を、ハリウッド俳優夫妻がすまし顔で通り抜けた。妻の下着ケースの奥には、ヒマラヤの寺院からひそかに持ち出されたという「雪男の指」が隠されていたという。世界でもっとも有名な未確認生物の正体を突き止めようとした人間たちは、なぜかそのたびに証拠そのものを盗み、すり替え、しまいには紛失してきたのである。
基本データ
名前:イエティ(Yeti)。英語圏では「アボミナブル・スノーマン(忌まわしい雪男)」の呼び名でも知られる
生息地:ヒマラヤ山脈(ネパール・チベット国境地帯)
初出:19世紀にイギリス人による報告があったと伝わるが、世界的に名が知られたのは1921年、エベレスト遠征隊が残した記録がきっかけだった
姿:全身を毛でおおわれ、二足で直立して歩く類人猿型。目撃談によって体格の描写には幅があるが、30センチを超える巨大な足跡の証言が繰り返し語られてきた
由来:シェルパの言葉で「岩の生き物」を意味する語が転じたとされる。英語名「忌まわしい雪男」のほうは、現地ガイドの言葉を隊長が誤解し、新聞記者がさらに誤訳して広めた”伝言ミス”の産物だという
事件簿
1921年、チャールズ・ハワード=ベリー率いるエベレスト遠征隊は、標高7700メートル付近で正体不明の巨大な足跡を発見した。この一件を伝え聞いた新聞記者ヘンリー・ニューマンが「アボミナブル・スノーマン」という訳語をつけて報じたことで、雪男は一躍世界的なスターUMAに躍り出る。
1951年には登山家エリック・シプトンが、氷斧を並べて撮った長さ32センチの足跡写真を『ロンドン・タイムズ』紙に発表し、世界中の度肝を抜いた。
1960年、エベレスト初登頂で名を上げたエドモンド・ヒラリー率いる学術調査隊は、クムジュン僧院に伝わる「イエティの頭皮」に狙いを定める。
地元代表チュンビ氏は「自分が同行すること」「1カ月以内に返却すること」を条件にこの聖遺物の貸し出しを承諾し、頭皮はシカゴ・パリ・ロンドンを巡る”世界ツアー”に出発した。専門家による鑑定の結果は、カモシカの一種セローの皮を縫い合わせたもの、というにべもない結論だった。

ホントカナ?
近年のDNA解析では、博物館や個人収集家が保管してきた毛・骨・糞などのイエティ関連サンプルを網羅的に調べたところ、出てきたのはことごとくヒマラヤ産のクマのDNAだったという研究もある。もっとも頭皮鑑定の当時から「毛質はサルに近く、寄生虫の種類もセローのものとは違う」と異を唱える専門家がいて、専門家同士の意見が完全に一致したことは一度もない。
そして、この一件の最大の矛盾は、正体候補そのものより”証拠の扱われ方”にある。1959年、探検家ピーター・バーンは、パングボチェ僧院に伝わる「イエティの手」というミイラ状の聖遺物から、僧侶に無断で指を1本抜き取り、代わりに人間の指を縫いつけて誤魔化したと後年語っている。
抜き取った指は、たまたま現地でトラ狩りをしていた俳優ジェームズ・スチュワート夫妻に託され、妻グロリアの下着ケースに隠されて英国へ密輸された。指はやがて霊長類学者の手に渡り、半世紀近い眠りを経た2011年、ついにDNA鑑定にかけられ「人間由来」と結論づけられた。
だが肝心のパングボチェの”手”の本体は、1991年に僧院から何者かに盗まれ、以後行方不明のままだという。2011年の鑑定が証明したのは、密輸されたすり替え候補の指一本の由来にすぎない。
何百年も僧院で拝まれてきた”本物”がそもそも何だったのかは、盗まれた時点で永遠にわからなくなってしまった。正体を突き止めようとするたびに証拠が消えていく――イエティ捜索の歴史は、解明に近づいたと思うたびに、なぜか振り出しに戻り続けてきたのである。
TOCANA的まとめ
科学者たちが証拠を盗み、すり替え、紛失してきた一方で、当のクムジュン僧院とパングボチェ僧院では、これらの聖遺物は今もマニ・リムドゥなどの祭礼で邪気払いの宝として大切に扱われているという。西洋の科学がどんな鑑定結果を出そうと、ヒマラヤの人々にとって聖遺物は聖遺物であることに変わりはないのだ。
イエティの名が世界に広まったきっかけそのものが誤訳の産物だったように、この生物をめぐる話はいつも、確かめようとする側の思い込みやうっかりのほうが目立ってしまう。エベレスト街道をたどってクムジュンやパングボチェの村を歩けば、雪男そのものよりも、そうした人間くさい騒動の跡と、揺るがない信仰の厚みのほうに出会えるのかもしれない。
トリビア
イエティの名は、思わぬ形で実在の生き物にも受け継がれている。2005年、南太平洋の深海の熱水噴出孔付近で発見された甲殻類は、はさみを含む脚全体が真っ白な毛でおおわれていたことから「イエティクラブ」と名付けられた。命名者はこの新属名を「ポリネシア神話の女神にちなむ」と説明していたが、後にそんな神様は存在しないと指摘され、命名者自身が誤りを認めている。イエティは、名づけの世界でもどうやら”盛る”癖と縁が深いようだ。
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2024.10.02 20:00心霊【TOCANA的UMAファイル #10】「イエティ」 ── 突き止めようとするたびに、証拠のほうが行方不明になる雪男のページです。イエティ、UMA、TOCANA的UMAファイルなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで
