土星の衛星の”氷の下の海”に生命は棲める!? エンケラドスが宇宙へ放つ「一粒」に証拠は眠るのか

太陽から約15億km離れた土星の衛星エンケラドス。分厚い氷に覆われたこの小さな天体の地下には、塩分を含む液体の海が広がっている。
その海に生命は棲めるのか。そして、もし棲んでいるなら私たちは見つけられるのか。2026年9月、科学誌『Science Advances』に掲載された2本の論文が、この二つの問いにそろって前向きな答えを示し、宇宙生物学者たちを沸かせている。
「生き物には厳しすぎる海」で起きた予想外の増殖
エンケラドスは直径わずか約500km。月の7分の1ほどの大きさだが、生命探査の最有力候補の一つとされてきた。
土星探査機カッシーニは、南極付近の割れ目から噴き出す巨大な水蒸気と氷の噴流を発見。そこを通過して得たデータからは、塩類、有機化合物、リン、水素が検出された。海底で水と温かい岩石が反応している痕跡もあり、地球の深海熱水噴出孔に似た環境があると考えられている。
ただし弱点もあった。この海はpH10〜11ほどの強いアルカリ性とみられ、酸素もほとんどない。この条件では水に溶けた炭素が自由な二酸化炭素としてほとんど存在せず、水素と二酸化炭素からメタンを作る微生物には致命的な壁になると考えられてきた。
そこでドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU)のヴァネッサ・ヘルムブレヒト博士を筆頭著者とし、地球微生物学者ウィリアム・オルシ氏らが加わった研究チームが、この壁を実験で確かめた。炭酸塩や鉱物を含む低酸素の「模擬エンケラドス海水」を作り、海と岩石の反応を再現。そこに日本の深海熱水噴出孔で見つかった好熱性のメタン生成古細菌、メタノサーモコッカス・オキナワエンシスを投入したのである。
結果は意外なものだった。pHを10〜11に調整しただけの通常の培養液では増殖できなかった。ところが模擬エンケラドス環境ではpH11でも問題なく増え、メタンを作り続けたのだ。鍵は岩石と水の反応で発生する水素で、微生物はこれをエネルギー源にしつつ、二酸化炭素不足に合わせて代謝そのものを切り替えていたという。
ヘルムブレヒト博士は、エンケラドス特有の地球化学が、従来の想定以上に微生物にとって好都合な条件を生み出しうるとの見方を示している。一方でオルシ氏は、今回の成果は生命の存在を証明するものではなく、あくまで地球最古級の代謝がその環境で成り立ちうることを示したものだと慎重な姿勢を崩していない。
生命の痕跡は氷の粒に「濃縮」されて宇宙へ
同時に発表されたもう1本の論文は、別の角度からこの謎に迫った。フランク・ポストバーグ氏らのチームは、カッシーニが計測した塩分の多い氷粒961個を分析。塩化ナトリウムが多いもの、炭酸塩やリン酸塩、カリウム塩が多いものなど、粒ごとの組成が驚くほどばらばらだった。
実験で再現したところ、エンケラドスの海水に似た液滴をゆっくり凍らせると、成分ごとに氷の中の異なる場所へ分かれていくことが判明。チームは、海水のしぶきが氷の割れ目を上昇する間に同じ分離が起き、半ば凍った液滴が噴出口で加速されながら細かく砕けていると考えている。
つまり、生命由来の物質があれば、噴流全体に薄く散らばるのではなく、一部の粒に濃い状態で詰め込まれる可能性があるわけだ。ポストバーグ氏は、将来の探査機が多数の氷粒を一つずつ調べれば、微生物由来の物質を含む粒に当たった時点で、既存の技術でも比較的容易に生命の痕跡を識別できるだろうと期待を寄せている。
探査機がすくう「一粒」に生命の証拠は眠るのか
「住める環境か」と「見つけられるか」。今回の2つの研究は、エンケラドス生命探査の前に立ちはだかっていた2つの壁を同時に低くした形だ。
もちろん、地球の微生物が模擬環境で生き延びたからといって、エンケラドスに固有の生命がいるとは限らない。答えは現地を直接調べるまで出ない。
それでも、数kmの氷の下に海を隠したこの星は、ドリルで穴を開けるまでもなく、自らの秘密を氷の粒に詰めて宇宙へ放ち続けている。いつか探査機がすくい上げたたった一粒の中に、地球外生命の最初の証拠が眠っているのかもしれない。
参考:Vigilia、ZME Science、Science Advances(Helmbrecht et al.)、Science Advances(Postberg et al.)
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2024.10.02 20:00心霊土星の衛星の”氷の下の海”に生命は棲める!? エンケラドスが宇宙へ放つ「一粒」に証拠は眠るのかのページです。微生物、エンケラドゥス、土星などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

