死んだ66人は「食中毒」ではなかった! ソ連が隠蔽した「生物学的チェルノブイリ」炭疽菌流出事故の真相

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 血を吐き、口から泡を吹き、肺が焼けるようだと訴えながら、わずか2日で息絶えていく——。1979年4月、旧ソ連の工業都市スヴェルドロフスク(現エカテリンブルク)は、正体不明の病の恐怖に包まれていた。

 当局はこれを汚染された肉による食中毒と発表した。だが真相は、街外れの生物兵器施設から漏れ出した炭疽菌だった。後に「生物学的チェルノブイリ」と呼ばれるこの事故の実態が明るみに出るまでには、10年以上の歳月を要している。

屋根を洗い、遺体を塩素に浸した「食中毒」の異様な後始末

 米ロサンゼルス・タイムズの取材に応じた遺族の女性は、父を亡くした当時を振り返り、住民は窓も扉も固く閉ざして家に閉じこもり、自分にも症状が出るのを震えながら待っていたと語っている。

 公式な死者数は66人。だが当局の対応は、ただの食中毒にしてはあまりに物々しかった。作業員が屋根や道路を放水で洗い流し、街には一時的に外出禁止令が敷かれた。

 解剖された遺体の肺はゼリーのような状態だったと伝えられている。医師たちは遺体をポリエチレンで包み、塩素をかけるよう命じられた。防護服姿の男たちが遺族宅を訪れて消毒を行い、死者はすべて墓地の一画にまとめて埋葬されたという。

KGBの目を逃れた標本と、亡命科学者の告白

 海外の新聞が軍事施設からの炭疽菌流出の噂を報じ始めると、米情報機関は1972年の生物兵器禁止条約違反だとソ連を非難した。ソ連側は否定を貫き、1988年には米国科学アカデミーで腸の組織標本のスライドまで示して、食中毒説の正当性を訴えている。

 突破口を開いたのは、当時遺体を解剖した病理医ファイナ・アブラモワ氏とレフ・グリンベルグ氏だった。2人はKGBが解剖記録に目をつけたと知ると、組織標本をひそかに瓶に移し、ホルマリン漬けにして隠し通したのだ。

 1992年、生物学者マシュー・メセルソン氏率いる米国の調査団が現地入りすると、2人はこの標本を差し出した。分析の結果、死因は汚染肉による腸炭疽ではなく、芽胞を吸い込んだことによる肺炭疽と確認された。さらに発症時の居場所を地図に落とすと、犠牲者は全員、生物兵器施設「コンパウンド19」の風下にいたことが判明した。

 同じ1992年には、ソ連の秘密生物兵器機関「バイオプレパラト」の幹部だったケン・アリベック氏が米国に亡命した。同氏は、施設の空気フィルターが交換されていなかったことが流出の原因だと明かしている。そこでは弾道ミサイル搭載用に、「炭疽菌836」と呼ばれる粉末状の強毒株が大量生産されていたという。

 この事故は、記録が残る中で世界最大規模の人の肺炭疽の集団発生とされる。隠蔽工作を踏まえれば、実際の犠牲者は66人を大きく上回る可能性も指摘されている。

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生物兵器施設「コンパウンド19」 画像は「Daily Mail」より

シベリアの研究所職員の死で甦る、ソ連の「負の遺産」

 この事件が今改めて注目されているのは、10月2日にシベリアのイルクーツク対ペスト研究所で28歳の女性職員が急死したためだ。ロシア当局は死因を原因不明の肺炎とし、保健当局ロスポトレブナドゾルは職員の検体から業務に関わる微生物は検出されず、危険な病原体を巡る事故の証拠もないとしている。ペスト感染説や試験管を割ったという説も報じられているが、いずれも確認されていない。

 アリベック氏はデイリー・メールの取材に対し、ロシアが近年施設を大幅に拡張していることを挙げ、生物兵器の開発を続けているとの見方を示した。米ワシントン・ポストによる衛星画像分析では、モスクワ北東の秘密施設セルギエフ・ポサード6で2022年以降に10棟が新設され、総面積は約2万3000平方メートルを超えるという。一部には高度な封じ込め実験施設の特徴が見られるとされる。

 イルクーツクの件とソ連時代の兵器開発との関係を示す証拠は、現時点では何もない。ただ、66人の死を「食中毒」で片付けた国が、真相を認めるまでに何年を要したか。その前例を知る者ほど、今回の当局発表をそのまま受け取ることに慎重になるのは無理もないだろう。

参考:Daily Mail、ほか

TOCANA編集部

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