【TOCANA的UMAファイル #28】「人面犬」 ── “生みの親”が次々に名乗り出る、平成生まれのはずの犬

深夜の高速道路で、時速100キロで走る車に一匹の犬が並びかけ、そのまま抜き去っていく。振り向いたその顔は、くたびれた中年男性だった。かと思えば同じ犬は、繁華街でゴミ箱を漁り、声をかけられると「ほっといてくれ」と言い捨てて去っていくともいわれた。高速道路で車を抜き去る脚力がありながら、普段やっていることはゴミ漁りなのである。
基本データ
名前:人面犬(じんめんけん)
生息地:全国。深夜の高速道路や繁華街に出るとされた
初出:都市伝説としては1989年ごろ。ただし「人の顔をした犬」の記録は江戸時代にさかのぼる
姿:体は普通の犬、顔は人間。多くは中年男性の顔で語られ、とにかく口が悪い
能力(噂):時速100キロで走る、6メートル以上跳ぶ、霊感の強い人にしか見えない
由来:妖怪説、遺伝子操作の生物兵器説、「T市」のバイオ実験の産物説、環境汚染による突然変異説など、諸説が乱立した
事件簿
1978年、アメリカ映画『SF/ボディ・スナッチャー』が公開された。劇中には人の顔をした犬が登場し、のちの日本の噂に影響を与えたのではないかといわれている。
それから約10年後の1989年、人面犬の噂が小中学生のあいだを駆けめぐった。ワイドショーやオカルト番組が取り上げ、ブームは翌1990年にかけて全国に広がっていく。高速道路型では、人面犬に追い抜かれた車は事故を起こすとされた。繁華街型は「勝手だろ」「うるせえ」と悪態をつき、人に気づくと「なんだ、人間か」とつぶやいたとも伝わる。
勢いは映像作品にも及び、1990年にはフェイクドキュメンタリー『ザ・人面犬』まで世に出ている。
ホントカナ?
人面犬には、ほかのUMAにはまず見られない特徴がある。「自分が作った」と名乗る人が何人もいるのだ。有力とされるのは、雑誌『ポップティーン』の編集部とライターの石丸元章氏が、読者投稿に脚色を加えて噂を仕掛けたという説だ。一方で俳優の的場浩司氏は『ダウンタウンDX』で、自分と仲間が広めたと語ったとされる。さらに爆笑問題の田中裕二氏はラジオで、噂の広まり方を確かめる“実験”として流されたものだという話を紹介したという。目撃者より生みの親のほうが名乗り出てくるのだから、妙なUMAだ。
だが、話はここでねじれる。石塚豊芥子『街談文々集要』には、文化7年(1810年)に江戸の田戸町で人の顔をした子犬が生まれ、興行師が見世物にして大評判になったと記されている。加藤曳尾庵『我衣』にも、文政2年(1819年)に日本橋近郊で生まれた子犬が人面だといわれ、江戸中の評判になったとある。

平成の“仕掛け人”たちが生まれるはるか前から、人面犬は江戸の人々に見物されていたのだ。誰かが作ったはずの噂が、作られる180年も前から存在していた。名乗り出る生みの親が増えるほど、本当の“最初の一匹”はかえって遠ざかっていく。
TOCANA的まとめ
なぜ人面犬は、これほど人々に愛されたのか。江戸でも平成でも、この犬は人を襲うより、見物され、噂される側にいた。江戸の人々は見世物小屋に足を運び、平成の子どもたちは校庭で噂を運んだ。中年男の顔で「ほっといてくれ」とぼやく犬は、怖いというより、どこか身近だったのだろう。忘れたころにまた現れては、人を集めてしまう。人面犬の正体は、「見てみたい」という人間の気持ちそのものなのかもしれない。
トリビア
人面犬に噛まれた人間も人面犬になるという噂には、さらに続きがある。最後に、犬と顔が入れ替わった「犬面人」が現れるという話まであったのだ。人の顔をした犬がいるなら、犬の顔をした人もいる。噂はちゃんと帳尻を合わせていた。
ほかの「TOCANA的UMAファイル」もあわせてどうぞ → 記事一覧はこちら
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
関連記事
人気連載
“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...
2024.10.02 20:00心霊【TOCANA的UMAファイル #28】「人面犬」 ── “生みの親”が次々に名乗り出る、平成生まれのはずの犬のページです。犬、人面、UMA、TOCANA的UMAファイルなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで
