「言っていない言葉」を口の動きごと合成!? 生中継の発言をほぼリアルタイムで書き換える、マイクロソフトの特許出願

イメージ画像 Created with AI image generation

 画面の向こうで話している人物の言葉が、見ている側の好みに合わせて、その場で別の言葉に置き換わる。しかも唇の動きまで、新しい言葉に合わせて描き直される――。

 そんな技術を、米マイクロソフトが特許出願していたことが分かった。米国特許商標庁(USPTO)が2026年10月29日に公開した出願公開公報(公開番号US 2026/0341309 A1)に、その仕組みが記されている。

「えー」「あのー」を消し、唇を描き直すAIエージェント

 出願の名称は「ライブイベントの映像またはAR(拡張現実)表示に対する、ほぼリアルタイムのAI強化」。出願人はマイクロソフト・テクノロジー・ライセンシングで、出願日は2025年4月29日。発明者としてデビッド・キャラハン氏とディネシュ・クマール氏の名前が並ぶ。

 公報の要約によれば、システムはまず、人が話しているライブ映像と音声から、AIエージェントが変更すべき言葉を選び出す。判断の基準は、あらかじめ設定したパラメータや視聴者のプロフィールだ。

 続いて生成AIが、選ばれた言葉を別の言葉に差し替え、映像と音声の両方に反映させる。差し替えた箇所の前後も加工し、つなぎ目が不自然にならないようにするという。特許情報を追跡するサイトの解説では、ここで言う「ほぼリアルタイム」は1〜10秒ほどの遅れを想定しているとされる。

 用途として挙げられているのは、まず同時通訳だ。視聴者が理解できない言語で話す人物を、視聴者の言語で話しているかのように、口の動きごと見せられるという。

 報道や解説によれば、「えー」「あのー」といった言いよどみや吃音を消す使い方も想定されている。対象となる映像は講演やプレゼンテーション、授賞式、クイズ番組、料理番組、スポーツ中継など幅広い。ARグラスやスマートフォン、タブレットで動かす構成も示されている。

方言も「不適切な言葉」も差し替え対象に

 一方で、この出願を報じた米テック系メディアのFuturismは、さらに踏み込んだ用途に注目している。

 Futurismによると、出願書類には、話者が独自に作った言葉や、米南部の「y’all(あんたら)」のような口語表現、英語の慣用句までを削る用途が書かれている。言い間違いや不適切な言葉、配慮に欠ける言葉を取り除く使い方もあり、差し替える言葉はインターネット検索から持ってくる場合もあるという。

 同誌は、気に入らない話をチャンネルを変えて避けるのではなく、他人の話し方そのものを自分好みに作り替える世界が近づくと指摘している。方言まで消してしまえば、人々はますます自分だけの情報の泡に閉じこもるのではないか、という懸念だ。

 なお出願書類には、元の映像と音声を「正解データ」として記録・保存しておく仕組みにも触れた部分があるとされ、悪用や混乱の可能性はある程度意識されていたことがうかがえる。

製品化が決まったわけではない

 注意したいのは、今回の出願はまだ「特許として認められた」段階ではないことだ。公開されたのは出願の内容であり、マイクロソフトがこの機能を製品に載せると発表したわけでもない。Futurismはマイクロソフトにコメントを求めたが、記事公開時点で回答は得られていない。

 前述の追跡サイトによれば、審査官は2026年7月の最初の審査で、出願時の請求項に対して拒絶理由を示している。これ自体は珍しくなく、通常は補正を経て審査が続く。

 大手IT企業は実用化するか分からないアイデアも大量に出願するものだ。それでも、生中継で聞こえる言葉が、話した本人の言葉とは限らなくなる未来を、巨大企業が一度は真剣に設計図に描いたというのは興味深い。数年後、画面の中の誰かがやけに滑らかに話していたら、その口元を少し疑ってみてもいいのかもしれない。

参考:Futurism、USPTO 出願公開公報 US 2026/0341309 A1、Patentlyze

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