悲劇の現象学 Vol.4

JR福知山線脱線事故が遺した沖縄差別の歴史と記憶 なぜ、沖縄人は本来の名前を隠すのか?

■沖縄差別と、埋まらぬ溝

 かつての沖縄差別を象徴するような事件が1903年にあった。大阪・天王寺で開かれた「第5回内国勧業博覧会」に出展された「学術人類館」というパビリオンの展示内容が物議をかもしたのだ。

「朝鮮人、北海道のアイヌ人、台湾高山族やアフリカ人らとともに、沖縄人が学術研究資料の名目で『見世物』として展示された事件です。展示されたのは人形ではなく本物の人間。人権を無視する展示内容に沖縄側から強い反発が出た」(同)

 しかも、「琉球の貴婦人」と銘打たれて連れて来られたのは2人の遊女だった。当時、沖縄に対して、いかに根強い差別意識があったかがうかがい知れる。

「当時は、『琉球人お断り』と書かれた看板を掲げる店もあった。そのため、戦前に沖縄から移住した人たちの中には、わざと本土風の読みに変えたり、なかには苗字自体を変えてしまう人もいた」(先の研究者)

 皇民化教育が先鋭化していた当時の沖縄では、こうした本土への同化意識は歓迎される傾向にあった。
しかし、太平洋戦争で地上戦を経験し、沖縄だけが日本の統治から切り離され、米軍の支配に置かれるなどの扱いを受けるに至り、人々の意識は変貌を遂げた。

「沖縄全体に、やまとぅんちゅ(大和人)、つまり本土への嫌悪感が広がった。その憎しみは本土に同化した沖縄人にも向けられ、姓の読みを変えたりした人を『裏切り者』と見る風潮が出てきた」(沖縄のマスコミ関係者)

 戦争を経験した世代や団塊の世代には、いまだその意識を強く持つ人が少なくないという。

 事故の悲惨さを物語る黒い縁取りのついた名簿。そこには、運命に翻弄された市井の人々の歴史と記憶も刻み込まれている。
(文=KYAN岬)

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