人は死を目前として何を見るのか? ― 実地調査でわかった“死ぬ直前の光景”
■デスベッド・ビジョン
女性産科医のフローレンス・バーネットは、不幸にしてお産の後に亡くなってしまったドリスについて語っている。
難産の末、赤ちゃんは無事であったのだが、その命と引き換えのように死の淵へと向かいつつあったドリスは、部屋の一点を見つめながら、うわごとのような言葉を口ずさんでいたという。そばにいたバーネットは、聞き役に回って彼女の言葉に応えていたとき、
「お父さん! 今から私がそっちへ行くから喜んでいるのね!」
…とつぶやくドリスの言葉を聞き、彼女があの世の父親の姿を見ているのだと理解した。
「お父さん、ヴィダ(ドリスの姉)も一緒なのね…」
と、姉の姿も見えているようだったが、ドリスの表情は明らかに訝し気であったという。それから暫くしてドリスは息を引き取った。
その後バーネットが知って驚いたことは、実はヴィダは3週間前に亡くなっていたのだが、出産を目前に控えたドリスがショックを受けないよう、周囲の取り計らいによってドリスには姉の死が隠されていたということだった。死を目前にして図らずもヴィダの姿を見たドリスが、戸惑いの様子を見せたということの説明もつくし、ドリスが見ていたと思われる人物は確かに2人ともこの世にはいない人々であることから、本当に死後の世界を見ていたと判断できなくもないのだ。
死の間際に見る、あの世のものとしか考えられないような不思議な光景「デスベッド・ビジョン」は、実に末期患者の41%が見ていると、バージニア大学の心理学者エミリー・ウィリアムズ・ケリー氏の研究論文では報告されている。
また、末期患者を現場で担当する看護婦たちの間では、正式な診察ではないものの、患者がこれらの「デスベッド・ビジョン」を見ているかどうかが、死期が差し迫っているかどうかの判断材料になるともいわれている。
精神科医のカーリス・オアシス氏とエランドル・ハラルドソン氏は、共同研究の中で「およそ8割の『デスベッド・ビジョン』の内容は、患者本人に付添い人がやって来たり、本人をどこかへ連れていくようなストーリーです」と語っている。
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