人は死を目前として何を見るのか? ― 実地調査でわかった“死ぬ直前の光景”

■死の直前に言語明瞭&動作機敏に

 精神疾患や認知症などの患者が、死期を目前にして突然、明瞭な話口調になるケースも数多く報告されている。記憶障害の患者ですら、死期の直前には家族の顔と名前を理解して会話に応じ、個々に最期の言葉を伝えることも珍しくないという。

 スコット・ヘイグ医師は、2007年に担当した患者のデイビット氏について書き残している。

 デイビット氏は肺がんを患った末、がん細胞が脳にまで転移している重症患者であった。既に彼の話し口調は不明瞭で、動くこともままならなかった。頭部をスキャンしたところ、脳はほとんど機能していないということも分かり、暫くして植物人間状態になってしまった。

 ある日ヘイグ医師は、午後の検診を終えたとき、デイビッド氏が懸命に呼吸をしているのを認めた。これは臨終が迫っていることを示すサインであることを医師は経験的に知っていた。しかし次の瞬間、長い昏睡からデイビッドは目覚め、看病していた妻と3人の子供に向かって静かに、理路整然と別れの言葉を述べ、笑顔で手の平を叩き合ったという。そして彼は息を引き取った。

 ヘイグ医師は「これは決して彼の脳が行った言動ではない。このとき既に彼の脳は機能していなかったのだ」と書き記している。

 精神科医のラッセル・ノイズ医師は、2度の脳梗塞で喋ることも動くこともできなくなった91歳の老女が、死を目前にして急に満面の笑顔を浮かべて頭を起こし、両手をあげて彼女の亡き夫の名を叫ぶ様子を現場で目撃した。そして次の瞬間、グッタリと頭を枕に沈め息を引き取ったという。彼女がデスベット・ビジョンを見ていたのかどうかは別としても、この一瞬、彼女が喋る能力と手を動かす力を取り戻していたことだけは確かである。


 倫理的、宗教的なハードルもあり、今まであまり積極的になされてこなかった人間の臨終にまつわる研究だが、ピアソン氏によって集められた過去のケース・スタディから、いくつかの傾向がはっきりと浮き彫りになってきたといえるだろう。今後、この分野での新たな発見が我々の死生観に多大な影響を及ぼすのではないだろうか。
(文=仲田しんじ)

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場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
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