卑弥呼はどこにいた? 「平原王墓」に隠された謎と、死者を糧に生き延びた古代日本人

 日本は世界的に見ても非常に歴史的価値の高い資料が多く残されている国であり、古来からの風習やしきたり、血脈を大切にしてきた国である。しかし、そのルーツは未だ謎に包まれている。

 そもそも、2世紀後半から3世紀初頭にかけて台頭した女王、卑弥呼の出自と彼女の統治する邪馬台国が実際にどこにあったのかも、長年歴史ミステリーとして、結論が出ないままであった。日本の歴史学者の間では、邪馬台国が「九州地方」にあったという説と、「近畿地方」にあったという説とが主張を激突させ続けてきた。さらに、近年では奈良県桜井市の大集落遺跡、纒向遺跡も邪馬台国の存在していた場所として有力視されるようになっている。

 私たちとしても、古くからその存在だけは知っている卑弥呼と邪馬台国について気になるところ。

 6月4日に放送された毎週水曜22時から放送中のNHK総合の歴史考察番組『歴史秘話ヒストリア』は、この疑問について「女王・卑弥呼は どこから来た?~最新研究から読み解く 二つの都の物語~」と題してメスを入れた。

 番組では、九州の福岡県糸島市に2世紀頃に栄えたとされる「伊都國」という国の王の墳墓「平原王墓」に葬られている女王こそが、卑弥呼か、あるいはその親族ではないかという興味深い考察が紹介されていたのである。


■王位と霊的エネルギーの継承儀式。その果てに卑弥呼は誕生した?

 1800年以上も前に作られた古墳。番組では、中国の歴史書「魏志倭人伝」に「卑弥呼は『鬼道』と呼ばれる不思議な呪術を使う女王だった」という記述が残されていることにも触れ、この平原王墓にも「呪術」の痕跡が見られることに着目している。

 平原王墓の棺の納められていた区画の真横には、人がもう1人横になれるほどの空白と、故意に割ったであろう銅鏡があったという。そして、あくまでも推論ではあるものの、「墳墓では先代の王持つ呪術の力、霊的なエネルギーのようなものを、その継承者が引き継ぐための儀式として用いられていたのではないか?」と説明した。

 つまり、先代の魂と霊力を、次代がそのまま受け継ぐ儀式を行うこと、そしてそれを人々に喧伝することで、王座継承直後から人心を掌握することができたということだろうか。そもそも、伊都國は近隣からも恐れられる勢力を保有した大国であったとされているため、もしも卑弥呼がこの伊都國の出身であったと考えるなら、当時の治世の中枢に送り込まれたとしても分からなくはない。


■死を起点とした霊力の継承、そのルーツは人の心の本質にある死への畏れか

 それにしても、先王の力を次世代の王が儀式によって引き継ぐという考えが何世紀も前に日本に存在していたというのは何とも興味深い。ただ、死者を自分の霊力の糧にするという考えそのものは世界中でも幾つか散見されている。中でも衝撃的なのがヒンドゥ教の宗派の一つに数えられるアゴーリである。このアゴーリの信徒の中でも比較的位の高い者は、ガンジス川を流れてきた水死体を食べるというのだ。これによって霊的なパワーを自身の体内に蓄えることが可能だと信じられている。

 ただしこれは自分の力を積極的に高めるための儀式というよりも、苦行の一環の範疇なのかも知れない。

 伊都國で行われていたとされる継承の儀式も、アゴーリの水死体を食べるという行為も、本質は死を一つのきっかけとして、生きている人間が永遠に触れることの出来ない世界の一端に介入しようとする姿勢にある。

 残念ながら卑弥呼が行使したという鬼道についての詳細な記録は残されていない。しかし、この鬼道は人々を惑わすこともできたという。そこに幻覚などを用いたカラクリがあったにしても、当時の人々にとってはそれこそが真実であって、恐らく行使者本人だってそう信じていたはずだ。継承の儀式は、先代の残した鬼道の詳細な情報を、後継者に開示するための祭祀だったのではないだろうか。
(松本ミゾレ)

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