夢遊病者や酔っぱらいは、なぜ壁にぶつからないのか? 驚きの「脳内GPS機能」が研究で明らかに!
■“舵取り”をする「HDニューロン」とは
ノーベル賞から半年も経たない先頃、酩酊状態どころか睡眠状態でも“脳内GPS”が活発に働いていることを証明する研究が発表された。
3月2日に「Nature Neuroscience」に発表された論文では、ニューヨーク大学神経科学部のジョージ・ブザキ教授が率いる研究チームが、マウスの脳内にまるでコンパス(方位磁石)の針のような働きを行なう神経細胞(head-direction neurons)があることを主張している。「HDニューロン」と名づけられたこの神経細胞は、その個体が進むべき方向を決めるいわば“舵取り”の役目をしているというのだ。
「一見、脳の単純な機能である“舵取り”をする動作、つまり今いる空間でどちらをを向いたらいいのかを決める“方向感覚”を、今回の研究を通してより詳しく知ることになったのです」(ジョージ・ブザキ教授)
このHDニューロンは脳の視床前背側核と海馬台後部領域にあるのだが、マウスが目標に向かって適切な方向に進んでいるときに活発に働くということで、まさに車のナビゲーションシステムのような役割をしているという。そしてさらに驚くべきは、このHDニューロンは、眠っているときでも活発に動いているという。そうであれば確かに、夢遊病者が障害物にぶつかったり道に迷ったりしないことの説明にもなる。だが、実験に使ったマウスをはじめ、我々の大多数は眠っている間に歩いたりはしないだろう。ではなぜ、睡眠中にもこのHDニューロンが活動しているのか……?
■睡眠中に脳内地図が“アップデート”される
2年前に行なった実験で、既にマウスの睡眠時の神経細胞の活動が確認されていた。この時の実験を引き合いに出してブザキ教授が立てた仮説は、睡眠時に“脳内地図”を“アップデート”しているというものだ。眠っている間に、今日一日で新たに認識したことや体験した出来事を“脳内地図”に書き加えて最新の状態にすべく“アップデート”を行なっているというのだ。このため、睡眠時でも活発にHDニューロンが活動しているのだという。まさに刻々と変化する道路事情に対応する最新型GPSカーナビのような機能を脳はもともと持っていたことになる。
この研究は、初期のアルツハイマー病にあらわれる方向感覚障害などの治療法をさぐるものとして期待されているが、その過程で様々な実験の可能を秘めているという。たとえば脳への刺激によってまるでリモコンのようにマウスをコントロールしたり、脳の電気信号を読み取ることで事前に行き先を予測したりする研究が考えられているということだ。近い将来、休日に出かけようと思っている場所が脳波測定で簡単にバレてしまったりも……!?
(文=仲田しんじ)
参考:「Daily Mail」ほか
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