【世界初】死んだマウスの前足を生き返らせて移植 ― 「脱細胞化」移植手術の驚異

■移植医療にとって大きな一歩

「我々は今のところマウスの足に対象を絞って研究を続けていますが、将来的にはもちろんほかの生物の腕や足などにも適用できるでしょう」とオット博士は「Daily Mail」の記事で言及している。すでにオット博士は数十本ものマウスの“前足”を作ることに成功しており、現在はヒヒの腕で同じことをすべく研究をはじめたということだ。

 ヒヒの腕を脱細胞化して再生し移植することができれば、一挙に人間への応用が近づくことになるが、オット博士は人間への応用までにはまだまだ多くの仕事が残っており、最初の人体実験までには少なくともあと10年はかかるだろうと述べている。その中には、現状の臓器提供のシステムの中に、将来的には手足の提供も含められないかどうかの検討も含まれているということだ。

 今回の実験は医学会に大きな反響を巻き起こしたが、慎重な意見も多いということだ。「挑戦するに値する研究分野であるが、現状ではまだ実験室の中だけに留めておかなくてはならない」と、ウィーン医科大学のオスカー・アスズマン博士は釘を刺している。

「脱細胞化」技術による移植手術は一部では既に行なわれているのだが、例えば気管を脱細胞化して移植した例では、最初の移植手術は成功し、患者は今も健在だが、残念ながら亡くなった患者や一命は取り留めたものの厳重な看護を必要としているケースなどもあるということだ。

 ともあれ移植医療にとって大きな一歩となったことは間違いない今回の研究が今後のどのように進展し、オット博士がひとつの目安としている10年後にどんな事態を迎えているのか興味もって待ちたい。
(文=仲田しんじ)

参考:「New Scientist」、「Daily Mail」、「Gizmag」ほか

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