【神経の謎】「ミラータッチ共感覚」 ― “患者の痛みを自分の痛みとして感じる”医師の驚異的能力
「君の苦しみがよく分かる」――。私たちは、このような言葉で人を元気づけたり、慰めることがある。しかし、よくよく考えれば本人の苦痛は本人にしか分からないものだ。従って、これはあくまでも“相手の状況に思いをめぐらせている”という態度の表明に過ぎない。ところが米国には、患者の苦痛を自身の苦痛として実際に身体で感じ取ることのできる医師がいるという。その人物は、果たして超能力者なのか? 早速詳細についてお伝えしよう。
7月27日、大手メディア「CBS」などが報じたところによると、患者の痛みを感じ取ることができる医師とは米・マサチューセッツ総合病院の神経科医、ジョエル・サリーナス氏。彼の特殊な能力は「ミラータッチ共感覚」と呼ばれるもので、これを持つ人は、他者の身体が受ける感覚を自分の身体でも感じ取れてしまうのだという。サリーナス医師には、幼少期からこの極めて珍しい力が備わっていた。
「例えば、ハグをしている人々を見ると、自分もハグしているように感じますし、殴られている人を見ると、自分も殴られているように感じてしまいます。まるで鏡の反射のように」(サリーナス医師)
医学部生だった時、サリーナス医師は腕の切断手術に立ち会ったことがあるが、まるで自分の腕が切られて、流血しているかのような感覚に襲われたという。
「ミラータッチ共感覚」は極めて珍しい能力で、その詳しいメカニズムはまだほとんど解明されていない。しかし近年、自ら行動するときと、他者が行動する様子を見ているとき、どちらのタイミングでも活性化する神経細胞「ミラーニューロン」の存在が発見されており、これが「ミラータッチ共感覚」と密接に関係していると考えられている。身体を痛そうにぶつけている人を見て、思わずたじろいでしまう経験は誰にでもあるが、これこそが初歩の「ミラータッチ共感覚」なのだという。
当事者が受けるほど鮮明な感覚を伴うわけではないが、「ミラータッチ共感覚」を持つ人は時としてその能力に押しつぶされ、うつや不安に悩み、引きこもりがちとなってしまうケースもあるようだ。しかし今回のサリーナス医師は、
「患者さんとの壁が取り除かれ、本当の意味でつながり合うための助けとなっています。この力は私の一部なのです。もう、この力がない方が(自分にとっては)気持ち悪いですね」
と、あくまでも前向きだ。「ミラータッチ共感覚」には不便なことも多いだろうが、文字通り“患者の痛みが分かる”医師となるため、サリーナス医師にはがんばってほしいものだ。そしてさらに研究が進み、いつの日かこの人体の謎が解き明かされる日がくることを願いたい。
(編集部)
参考:「CBS LOCAL」、「Oddity Central」、ほか
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