イスラム国の残忍さは病気が原因? ― 普通の人間が突然、殺人鬼になる「邪悪症候群」

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■深く宗教に傾倒している者ほど「邪悪症候群」に罹りやすい!?

 ではどうやって人は前頭前皮質を“損傷”してしまうのか?

 フランス・パリ高等師範学校のエティエンヌ・コエクリン博士らが2010年に行ったMRIを駆使した実験では、人間は2つの作業を同時に行うと判断に時間がかかりミスが増える傾向にあることが実証された。したがって基本的に人間は1つのタスクに集中すべきであり、3つ以上のタスクを同時に行うのはミスを大幅に増やし、非効率であるばかりでなく危険であることをこの実験は示唆している。

 過激派組織はたいてい深い帰依を求められる宗教やイデオロギーの旗の下で運営(!?)されているが、崇高な宗教上の理念を励行しながら日々の経済的な実生活を送るということは、常に2つのタスクを抱えていることになる(この場合聖職者は除くことになるが)。もちろん大半の“信者”は心の葛藤を招くような事態に直面することはあまりないだろうが、深く宗教などのイデオロギーに傾倒している者ほど宗教理念と実生活の間でダブルバインドに陥りやすく、その結果いろんな意味での“ミス”をおこしやすい状態にあるとはいえないだろうか。つまり、何らかの理念に深く傾倒していればいるほど、前頭前皮質の“損傷”を起こしやすく「邪悪症候群」に罹りやすいという仮説が成り立つのだ。

 またフライド博士によれば、「邪悪症候群」は環境への依存度を高め、集団に伝播するという。これによって過激な組織をより極端な行動に駆り立てるのだ。15歳から50歳までの男性が最も罹りやすく、しかもやっかいなことに「邪悪症候群」に罹患しても当人の記憶力や言語能力、計算能力といった知能は衰えないため、例えば用意周到に計画された犯行も遂行できることになる。

 そしてまたいったん人殺しを体験した「邪悪症候群」患者(!?)はその後、人を殺めることに急速に鈍感になっていくということだ。つまり殺人を何とも思わなくなるのだ。

 英科学誌「New Scientist」の記事によれば、フライド博士はまだ仮説であるこの「邪悪症候群」の兆候と症状は広く世に知られなければならず、発症の防止のためには教育が鍵になると述べている。フライド博士は乗り気ではないようだが、さらに研究を進めることで症状を投薬によって治療する道が拓けてくることも確かだ。「New Scientist」の記事では第二次世界大戦中のナチスの例も挙げて、この「邪悪症候群」を解説しているが、我々が想起するのはなんといっても1990年代のオウム真理教の一連の事件だろう。

 ともあれこの「邪悪症候群」はもちろん、今後のさらなる研究が必要とされる仮説だが、普通の人間を凶悪な連続殺人鬼やテロリストに変えるのは脳の機能障害が原因であるという視点が加わることは、問題を総合的にとらえる上で無駄なことではないはずだ。
(文=仲田しんじ)

参考:「New Scientist」、「Salon」、「Live Mint」、ほか

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