“本物のピノキオ”と呼ばれた赤ん坊 ― 脳が鼻から飛び出る「脳ヘルニア」とは?
2013年の事だった。イギリスのウェールズに暮らすエイミー・ポールは、妊娠20週目を迎え産婦人科で検診を受けていた。エコー検査の最中、モニターに映し出された胎児を見た医師が眉をひそめた。どうやら胎児の顔が、通常とは異なる成長をしているようだと言うのだ。この時、エイミーには中絶を選ぶ道もあったのだが、彼女はお腹に宿った命と向き合っていくと決意した。
そして2014年2月、エイミーはウェールズ国際病院で我が子を出産した。何よりも喜ばしい生命誕生の瞬間だったのだが、産まれたばかりの息子を見た彼女は絶句した。小さな赤ん坊は、ちょうど鼻の位置にゴルフボール大のデキモノがあったからだ。これまでに多くの出産に立ち会ってきた病院の関係者でも、その異様なデキモノが果たして何なのかわからなかった。原因を探るため、すぐに精密検査が行われるとMRIで衝撃の事実が判明した。
病名は「脳ヘルニア」。ヘルニアとは、人間の体内にある臓器などが、何らかの原因で本来とは異なる位置にズレたり、押し出された状態の事を指す。よく耳にする椎間板ヘルニアは、背骨にある椎間板と呼ばれる軟骨が変形し、組織がはみ出す症状だ。そして脳ヘルニアとは、頭蓋骨の損傷などにより出来た穴から、脳組織が飛び出してしまう事を指す。エイミーの息子は、生まれつき脳を支える骨に穴が開いていたため、そこから脳組織が鼻の位置まで垂れ下がり、大きなデキモノを形成してしまったのだ。そう、まるで本物のピノキオのように。
非常に珍しい先天性疾患の脳ヘルニアは、イギリスでは10,000人に1.7人の確率で発症すると言われているが、このように鼻まで脳が垂れ下がってくる例は極めて稀だ。乳児はオリーと名づけられ、すくすくと成長しが、それに伴い鼻の中の脳組織も大きくなっていった。
「鼻の大きなデキモノを見て、最初はどうしていいのかわかりませんでした。だけど気づいたんです。私はただ息子を愛せばいいのだと」
無邪気に笑いかけてくる息子のオリーを守り、生涯愛すると誓ったエイミーだったが、医師からある決断を迫られる。オリーは脳ヘルニアの影響で鼻道が塞がれ、鼻から呼吸をすることが困難だった。さらに、万が一オリーが転倒して鼻を強く打ち付けたりした場合、脳組織によって感染症や髄膜炎を引き起こす危険性があったため、大掛かりな手術を行う必要があったのだ。もちろん手術には危険も伴ったが、我が子の将来を考慮し、エイミーは手術に同意した。
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