荒木飛呂彦になれなかった、もう1人の天才漫画家 ― 巻来功士が語る「少年ジャンプ舞台裏と表現規制と…」

荒木飛呂彦になれなかった、もう1人の天才漫画家 ― 巻来功士が語る「少年ジャンプ舞台裏と表現規制と…」の画像1連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』(イースト・プレス)

『週刊少年ジャンプ(以下『ジャンプ』)』――それは筆者のような1970年代生まれの人間にとっては避けて通ることのできぬ雑誌の形をした金字塔である。と同時に、我々のような出版業界の裏側を引きずり歩いて大人になった人間には、もはや同じ業界とは思えぬほど遠くの方で燦然と光り続ける表舞台である。

 しかし、昨年行なわれたなべやかん氏主宰のトークライブ『T-1グランプリ』で、連載当時の『週刊少年ジャンプ』の裏側を語っている巻来功士氏を見て、なぜか言いしれぬ親近感を覚えた。

 自らの理想と外圧の狭間でもがき苦しみ、傷付いたあまりに極北を目指してしまうそのナイーブな人生の選択は、今やアンダーグラウンド稼業まっしぐらな筆者にもわかる、否、わかりすぎるほど哀しい人間ドラマである。そして、それらすべての苦悩は、先月2月7日に刊行された新刊本『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』(イーストプレス刊)として、見事にアーカイブ化されている。

 1980年代、毎週数百万部を売り上げる途方もない巨大漫画ビジネスの真っ只中で、少年誌の範疇を逸脱する独自のエログロ路線の作品を追求した結果、極めて数奇な運命を辿ることになった漫画家・巻来功士氏に、そのキャリアにおける裏表、光と影が激しく交錯するその半生を聞いた。


■編集者の要らない漫画家

荒木飛呂彦になれなかった、もう1人の天才漫画家 ― 巻来功士が語る「少年ジャンプ舞台裏と表現規制と…」の画像2画像は、阿佐ヶ谷でのイベントの様子。左からMCのなべやかん氏、巻来氏、森田まさのり氏。

――2月6日に阿佐ヶ谷ロフトで行なわれた出版記念イベントのトークショーでお聞きした感じ通りだと、本書は“鬱屈とした恨み節の本”であるかと思ってました。でも、実際に読んでみたら、いわゆる“暴露本特有の暗さ”が感じられず、“漫画少年の青春記”に昇華されている感じがしましたね。イベントに集英社の編集者の方たちが多数見に来ていたのがわかる、素晴らしい本でした。

巻来「いえいえそんな、ありがとうございます」

――巻末に掲載されている初代『ジャンプ』担当編集者である堀江信彦氏とのインタビューも凄くおもしろかったですね。

巻来「あれは凄くおもしろいですよね、あと、あの対談の時の堀江氏の前に座った僕を見せてあげたかったですよ(笑)」

――そんな感じだったんですね。でも、堀江氏と巻来さんでは、そこまで恐縮するほどの年齢差ではないですよね?

巻来「そうですね、当時の『ジャンプ』は編集長まで若い感じで、作家も編集も、同じような年の若い人たちで作ってたんですよ」

 巻来氏が『ジャンプ』で連載を開始したのは、1983年(『機械戦士ギルファー』(原案=西尾元宏))。同誌は1995年に653万部という現在の出版状況下では考えられない怪物的売上を記録しているが、巻来氏が連載した80年代は、まさにその頂点に登る急勾配の道程であり、『北斗の拳』『キン肉マン』『シティーハンター』『キャプテン翼』『聖闘士星矢』等のヒット作を要し、既に発行部数400万部に迫ろうとしているバブル期であった。

巻来「僕が連載していたのは、最終的には500万部とかその辺りの頃ですよね。その頃は作家と編集者が近かったんですよ。編集者もみんなまだ若いのに、上に気なんて遣わずにガンガンやれてましたよ。今の編集はサラリーマン化してるんで、上の顔色見ながら漫画家と打ち合わせするんですけど、その頃は上と平気でケンカしてた時代なんで、漫画家と一緒に“こんな作品どうだ!”って上司にぶつけてましたよね。みんな“かましてやろう!”って感じでした」

荒木飛呂彦になれなかった、もう1人の天才漫画家 ― 巻来功士が語る「少年ジャンプ舞台裏と表現規制と…」の画像3巻来氏の作品の一部

 なぜいきなり巻来氏が編集者の話をしているのかといえば、それは単行本『連載終了!』にも描かれている通り、漫画家という職業に就くものにとって、出版社側の担当である“担当編集者”が凄まじく大きい存在からである。漫画制作は、漫画家と編集者という異なる職業の人間による共同作業の部分が大きく、巻来氏はその『ジャンプ』連載時に於いて、一蓮托生ともいえる担当編集者がコロコロ変わってしまうという、かなり好まざる事態を経験してきた。

 その編集側からの理由として、堀江氏は巻来氏が『ジャンプ』連載作家の中では珍しい、“縦糸”を紡げる作家だったことを指摘し、だからこそ、担当編集が変わっていったのだろうと単行本巻末の対談で振り返っている。

――巻末の対談では、漫画制作に於いて、「ストーリーテリングが“縦の糸”で、主にそれは編集の領域だった」っていう説明がおもしろかったですね。

巻来「僕もそういう話初めて聞きましたけど、その考え方はおもしろいし、わかりやすいですよね」

――だから、縦糸を紡げる巻来さんには編集者が固定じゃなかったというようなお話でしたね。

巻来「ある意味それは合ってますよね。僕は勝手に考えるのが好きだったんで……」

――編集者によってはストーリーについて、かなり自分の意見を言ってくる方もいたということですよね?

巻来「というか……それがほとんどじゃないですかね。だから『ジャンプ』の漫画家さんは、幼いというか、純朴で“マンガだけ描いてるのが楽しいなぁ”っていう若い人がいいんですよ。この本の中でも僕は自分のことを“外様”って描いてますけど、やっぱり外様は好かれないですよ」

 巻来氏の漫画家デビューは1981年。少年画報社の『少年キング』誌上で『ジローハリケーン』を連載。その後『ローリング17』を連載中に、同誌が廃刊となり、1983年に『ジャンプ』へと活動の場を移すことになった。巻来氏は、自らが“『ジャンプ』デビューではない”作家であるということを常に感じながら連載をしていたのだという。

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