擬人化の歴史は古代にまでさかのぼる?現代の萌えキャラに至るまでの歴史的変遷とは?/インタビュー

 2000年代に入りすっかり定着した感のある「萌えキャラ」。近現代において誕生したとされがちだが、はるか昔から存在する妖怪、キャラ付けされた動物たちなどとの共通点も垣間見ることができるようにも思う。これらはどのような歴史で結びついているのかを、古代や中世から現代までの壮大なスケールで、まとめたのが『妖怪・憑依・擬人化の文化史』(笠間書院)だ。今回、著者のひとりで、國學院大學非常勤講師の伊藤慎吾氏に、中世の擬人化から現代の萌えキャラに至るまでの歴史的変遷について話を聞いた。

■擬人化されたキャラクター物語の歴史

――まず、表紙に“異類”という言葉があります。あまり馴染みのない言葉ですが、どのような意味なのでしょうか?

伊藤慎吾(以下、伊藤) 異類とは、人間以外の生あるものを指します。ただ、海や山に棲んでいるような生物ではなく、妖怪や擬人化されたキャラクターなど主に文学作品やアニメなどに登場するもののことです。

 私は日本文学、とりわけ中世文学を専門に研究しています。中世後期以前の物語作品は、『源氏物語』や『伊勢物語』のような王朝の恋愛物語や、『平家物語』のような武士を中心とした合戦物語と、人間が物語の中心でした。しかし、中世後期になると、恋愛や合戦を下地にしつつ、人間以外の擬人化された動物や植物などが物語の中心になる作品が増えるんですよ。そうした擬人化されたキャラクターが主役の物語を「異類もの」と呼びます。

 また今回出た本では、民俗学や日本文学の中でも、特に古典を研究している複数の研究者にも執筆をお願いしています。近現代の日本文学研究では文学作品や作家論の研究が多いのに対し、古典文学の研究では物語に登場する鬼や天狗、妖怪、動物のイメージの変遷といった文学を超えた研究が盛んで、中でも妖怪研究は非常に盛んに行われています。

――今、擬人化と妖怪が出てきましたが、両者の違いをあげるとどのような点があるのでしょう。

伊藤 まず、幽霊やお化けも含めた妖怪は原理的に怖いですよね。それはたとえば夜道を歩いていたら出くわすかもしれない怖さがあるからで、つまり我々と同じ世界にいるかもしれないから怖いのです。

 これに対し擬人化された動物などは、初めから我々と同じ世界には存在せず、あくまで我々とは違う世界、2次元の空想の世界の住人です。また、そうしたキャラクターは表現者が創り出し、マンガ家ならばストーリーを伴いキャラクター化していくものなんですね。

――異類ものというジャンルは中世後期から増えてくるとのことですが、一番古い作品はどのようなものなのでしょうか?

伊藤 最初の作品となると特定は難しいところですが、擬人化されたキャラクターの存在が確認されるのは古代にまでさかのぼりますね。インド・中国から伝来した仏教経典に動物寓話が見られ、それが日本で広まりました。しかしそれらはひとつの挿話に過ぎず、一編の文学作品として読まれるには至りませんでした。

 ところが中世後期に入ると、動物の擬人化された異類物語が増殖していきます。たとえば『精進魚類物語』。これは精進料理の精進、つまり野菜や豆腐、油揚げを指し、これと魚類である魚との合戦物語です。この背景には、当時の日本の食文化が影響しています。当時の日本は肉を食べないという建前とは別に、魚を中心とした食文化があります。またその一方で、動物性の食材を使用しない、精進料理がありました。こうした相反する食文化を背景としたキャラクターが合戦をしていくんです。

 また鳥のカラス、サギが登場する『鴉鷺(あろ)合戦物語』という作品もあります。これは、カラスの御曹司がサギの姫君に失恋し、その腹いせにカラスが戦いを仕掛けていく白対黒の物語で、最終的に、カラスは戦いに敗れ、出家するといういかにも中世的なオチがつきます。文体に目を移すと、『平家物語』のような物語のレトリックを巧みに用いていることから、同作のパロディー作品という側面も持ちあわせています。

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