ヨーロッパとアフリカをくっつける幻の二大陸ドッキング計画「アトラントロパ計画」が存在した!

■次に起こる世界大戦の防止策だった!?

 こんな途方もない計画をぶち上げられた日には、さぞかし民衆も度肝を抜かれたと思いきや、当時のヨーロッパでは建築家、エンジニア、ジャーナリストをはじめとして、当事国の首脳間でも白熱した議論が繰り返され、一時は国連も真剣に調査に乗り出していたというから侮れない。

 ニュースサイト「The Conversation」によると、キングス・カレッジ・ロンドンで文化史の講師を務めるリカルダ・ヴィダール博士は「ゼーゲルは、第一次世界大戦を経験しています。戦争によって引き起こされた1920年代の経済的、政治的混乱、そしてナチスの台頭。それらはゼーゲルに、かなり思い切った手段を使わないと、次なる大戦を食い止めることは不可能と実感させたのだと思います」と述べている。そして、ほとんど外交的解決に失望していたゼーゲルは、テクノロジーに望みを託したのだろうと。

 ゼーゲルは「アトラントロパは独立した団体に管理され、他国への脅威となるような国があれば、直ちにダムのスイッチを切り、電力の供給を絶つ権限を持つ」と定義しており、また、この大掛かりな仕掛けを造るために各国が資金を出し合えば、戦争するための資金など底をつくと踏んでいた。つまり、彼はどこまでも真摯に世界平和を提唱していたということだろう。

 なお、ゼーゲルは、この壮大な計画をPRするため、ラジオ番組、映画、講演、ついには「アトラントロパ交響楽団」までこしらえてしまったというのだから、その本気度は十分伝わってくる。この稀代のマーケッターは、1952年に67歳で亡くなるまで根気よくプレゼンを続けていたそうだ。


■150年に及ぶ壮大なプロジェクト

「予想がつくことですが、当時、各国間の首脳陣は、どちらかといえばユートピア構想に酔いしれていただけなのです。水運などにデメリットがあることも認識され、結局、アトラントロパを現実的な科学技術による建設とは考えられなかったのでしょう」(リカルダ・ヴィダール博士)

 完成までに150年、ジブラルタル海峡にかけるダムの建設だけでも10年かかるという世紀を超えた一大プロジェクト。だが、このジブラルタルのダムが完成したなら世界最大の発電所となり、5万メガワットの電力供給が可能になるはずだったという……。残念ながら、ゼーゲルの大いなる野望は幻となってしまった。そして、今でもアフリカとヨーロッパはつながっていない。

 しかし、ゼーゲルの神をも恐れぬマスタープランは、後世に多大な影響を残しているのも事実だ。現在、ミュンヘンの「Deutsche Museum(ドイツ博物館)」では、ユーラフリカン超大陸計画に関する都市構想図面やサポーターからの激励の手紙などを閲覧することができる。

 まるで、「バベルの塔」建設と「モーゼの奇跡」を地で行くような話だが、情熱的で夢想家の男のロマンに、しばし思いを馳せてみるのも悪くないだろう。
(文=佐藤Kay)

参考:「Daily Mail」、「The Conversation」ほか

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