脳を交換したらどっちが「私」? 「頭部移植」を巡る哲学的思考実験と「魂」の実在性
イタリア・トリノ大学のセルジオ・カナベーロ医学博士が、世界初の「頭部移植手術」の実現に向けて着々と準備を進めている。すでにマウスや猿を使った動物実験がほぼ成功を収め、2017年末には、ロシア人コンピュータ科学者のヴァレリー・スピリドノフ氏に対して実施される見込みとなっている。前代未聞の移植手術が約1年後に迫っているが、医療倫理を巡って、世界中ですさまじい反感の嵐が巻き起こっているのも事実である。我々は現代版「フランケンシュタイン」を生み出すべきか否か、ギリギリの選択を迫られている。
■「脳交換の倫理」
米心理学誌「Psychology Today」オンライン版(11月11日付)で、教育心理学の専門家マーティ・ネムコ博士が「脳交換の倫理」という衝撃的なタイトルの記事を掲載。博士は、たとえ「マッスル・メモリー」などの身体的な記憶があるにしても、人々のアイデンティティの大部分は脳に依っていると指摘。もし、脳を交換すれば深刻な倫理的問題を引き起こすと警鐘を鳴らしている。
「脳がアイデンティティのほとんど全てを規定しているとして、次のような思考実験を考えてみて下さい。西暦2050年、思考、感情、記憶、思考の傾向など全ての精神的機能は、脳の電気刺激に起因すると科学者が突き止めたとしましょう。そして、その時あなたは最悪の人生を送っていたとします。あなたの思考や記憶は悲しみと恐怖に満たされ、未来に何の希望も持てないような絶望的な状況です。つまり、あなたは自殺衝動を伴う慢性的なうつ病を抱えています。そのような状況で、あなたはハードドライブとしての脳を取り替えて、新しいセットの電気刺激を脳にインストールしたいと思いますか? もし脳を取り替えたら、あなたはあなたのままですか? もし、あなたでないとしたら、そのことは問題ですか? もし、他人同士が脳を交換するとしたら、あなたは賛成ですか、反対ですか?」
おそらく、ほとんどの読者は「脳を取り替えたら私ではない」と思うのではないだろうか? それというのも、博士は脳の電気刺激にアイデンティティが起因するといいながら、脳を取り替えてしまうことを提案しているからだ。もし、脳を取り替えてもアイデンティティが保たれるならば、それは脳ではなく身体がアイデンティティの原因と考える場合であろう。その場合、この思考実験は前提から崩れることになる。
むしろ「脳交換」の倫理的問題として適切であるのは、哲学者たちが捻り出してきた次のような思考実験ではないだろうか?
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