大正時代の国家公認「変態性欲の研究」は再評価すべきだ! LGBT、露出狂、SM…「日本の性教育」の先進性を亜留間次郎が解説!

hentai_1.jpg画像は「Getty Images」より引用

■変態性欲の発展

 その後も時代の要請により、性教育に関する議論は活発に行われました。大正時代に入ると性医学者が脚光を浴びることになり、様々な性医学書が出版されます。

 特に、性欲の中でも変態に関する研究は大正時代に入ってから急激に発達するようになりました。大正6年から大正15年にかけて日本精神医学会より「変態心理」という雑誌が定期刊行され、“変態”とは何か活発に議論されるようになります。

 欧米ではキリスト教的価値観に基づき、「変態は地獄に落ちる、変態には悪魔が取り憑いている」と言って、聖職者や庶民が拒絶反応を示したのに対して、日本ではキリスト教的価値観が薄かったことで、変態の研究がきちんと進んだのかと思います。

 その中でも特筆すべきは、羽太鋭治(はぶと えいじ)医学博士という人物です。学芸書院より『性欲教育の研究』『変態性欲の研究』を出版し、「家庭による私的性教育」と「学校による公的性教育」の両輪による教育システムの確立を訴えた、まさに性教育界のパイオニアです。

 題名からしてアレなのに、ちゃんと内務省の国家検閲を通っています(笑)。

『変態性欲の研究』という題名だけあって、SMや露出狂どころか、「女性的男子」という名称で今で言う「男の娘」についてまで言及されているすごい本です。読んでみると、日本の変態は大正時代に完成してたんじゃないだろうかと思います。

 大正浪漫物の作品を執筆されている作家の皆さん。大正時代に「女性的男子喫茶」という名称で「男の娘カフェ」を出しても、時代考証的に「OK」と言えそうです。

『変態性欲の研究』というタイトルからして誤解を招きそうですが、何が正しい性欲で何が悪い性欲なのか、性欲の善悪をはっきりさせて、国民が悪い性欲に溺れない様に正しい性教育を行うことが目的でした。国民を「正しい性欲生活」に導くことが意図されていたのです。


■明治時代の強姦事情

 さて、その中でも、かなりのページ数を割き、世界各国の刑法まで列挙して“最も悪い変態性欲”としているものが「強姦」です。

 強姦魔に対して、刑罰だけでなく精神病としての治療も必要と説いていますが、当時の精神病の治療って、死ぬまで精神病院に監禁することなんですけど、それって実質的に終身刑……。

 いや、21世紀現在のアメリカに、コーリンガ州立病院というペドフィリアを死ぬまで監禁しておく専門の精神病院があることを考えると、日本の法務省が変態性欲の研究成果を無視してくれたことは、女性にとって不幸としか言いようがありません。

 なにしろ、大正時代の強姦の罪は非常に軽かったのです。

 明治から大正時代の刑法第三百四十八条に「十二歳以上ノ婦女ヲ強姦シタル者ハ軽懲役ニ処ス」と強姦罪の規定がありますが、長くても30日程度。しかも、被害者女性の大半が泣き寝入りし、警察に訴えても99.9%は被害届の受理すらしてもらえず追い返されるような時代です。

 昭和8年以前の統計に強姦、強制猥褻などの項目が存在しないため、大正時代に強姦事件がどの程度あったのか、正確な数字は不明です。「女の子は暗くなったら出歩いてはいけません」「門限は厳守しなさい」と言われていた理由がよくわかります。

 そんな暗黒時代に、強姦がいかに異常で、悪で、犯罪であるかを説いた『変態性欲の研究』はもっと正当に評価されていいと思います。

 SMとか男の娘がOKなのも先進的と評価していいと言うべきか、逆に今の時代にこそ『変態性欲の再研究』が必要ではないでしょうか?

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