受け取ってしまった男 ― ヤクザが多めの地方都市で起きた“本当にあった怖い話”
物騒だといわれる地方の政令指定都市で、実際にあったと噂される話。
「はいっ!」と言われて何かを手渡されても、普通は受け取ったりしないものだ。それを梅木のやつは受け取ってしまった。
梅木は20代後半のフリーター。特に音楽にも不良にも縁はないが、背が高く普段着はヒップホップ系で、それが妙に似合っている。その日、深くかぶった帽子にアンダーグラウンドなデザインのパーカーを着て仕事に出かける途中、友人からのLINEに気づいて、サラ金のシャッターにもたれかけてスマホをいじっていた。
すると、送信が終わってスマホを懐に入れた瞬間、
「はいっ!」
と言う声がして目の前に紙袋が差し出された。普通の人だったら「えっ」と驚くような反応をして、そのことで相手も人違いだと気づくはずだが、梅木はこのあたりがナチュラルな性格で、ノーリアクションで、ただ、普通に紙袋を受け取ってしまった。
「鎌切さんに“残りは仕事がきちんと終わったら”とお伝えください」
そう相手が頭を下げるので、梅木も同じように「はい」と言って頭を下げた。サングラスに革のスーツのその男は満足そうに頷いて、踵を返すとさっと人ごみに消えた。
見知らぬ男から人違いでずっしり重たい紙包みを受け取ったら、普通は心配で中身を見てみるものだ。しかし、梅木はそのまま何事もなかったようにバイト先に向かう。普通とはちょっと感覚がずれているのが梅木という男だ。職場のロッカーに紙袋をしまうと、そのままカラオケボックスの仕事をこなした後、バスで繁華街に向かって友人と飲み、そこから電車で家に帰った。
行きと帰りの経路が違ったのは、この段階で梅木にとっては幸運だった。
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