ーー構成に決定的な影響を与えた出来事はありますか?
野村 表紙の女性もそうですけれど、撮影していた4年の間に、現地で知り合った何人かの女性達が妊娠して子供が生まれたんですよ。小谷村では、できれば子供を産みたいという女性にも多く出逢って。「子供ができたらここで産み育てたい」という。それがここで命をつないでいくことなんじゃないかって。村に腰を据えて生活してる人たちが。
ーーこれまでの作品の中でも、妊婦は主要なモチーフの1つでしたね。
野村 やたらと妊婦が出てくる私の作品、みたいな(笑)。撮りたいという衝動は素直にありましたが、でも、それをやると、これまでの作品と関連性の意味ができ過ぎると思うところもあり、少し迷ったんですよ。自分としては作品としても新しいフェーズに行きたい時期だったので。でも、命の巡りっていうことだから、たぶんこれでいいんだと改めて思い、積極的に撮りました。
■「土」「火」「水」「空」を写真でビジュアル化する
ーーもともとのコンセプトはどんな感じだったのですか?
野村 当初は猟がメインになると思っていたんです。人や自然をもっと激しく撮ってまとめたような、もっと荒々しく雄大な感じの作品になるだろうって。でも、撮影しているうちに、猟とか激しさばかりでもないなっていう考えになりました。
ーーそもそも小谷村を撮ることになったきっかけは?
野村 まずは「火」というキーワードがあったんです。これまで「水」をテーマに撮ってきて、この新作では「火」をテーマに撮ろうと。あと、南アルプスの天然水じゃないけど、水といえば、それを生むのはそもそも「山」だなと。それで、「山」と「火」に関わるものとして火祭りが思い浮かんだんですね。
ーーなぜ「火」だったんでしょうか?
野村 この世って「水」「火」「土」「空」の四大元素でできていると言うでしょう。私自身もそう考えているところがあって。私は写真を撮っているので、これらをビジュアル化しないとならない。「土」は土地性。「空」は空気感。これまで「水」、湿ったイメージを撮ってきて、だから今度は「火」を撮ろうと思ったんです。もちろん、猟を撮りたいというのもありました。
ーーどうして猟を撮ろうと?
野村 東京で生活していて「命を食べる」っていうことに対する意識が人も自分も希薄になっているのを感じていたから。それで、山で、猟をやっていて、火祭りのある場所を探しました。最初は東北も考えたのだけれど、私の場合は何度か通って関係性を作ってから撮るやりかただから、東京に近いほうがいい。それで、信州を回ったなかで、小谷村で運良く関係性ができたので通うことにしたんです。