長野県小谷村で“神の宿る山”と共に生きる人々 ― 血、火、水、命、マタギ…写真家・野村恵子『Otari – Pristine Peaks 山霊の庭』インタビュー

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■神って何?

「Otari」より

ーー『Otari – Pristine Peaks 山霊の庭』を読み解くキーワードの1つは「神」かなと思ったんです。唐突で乱暴な質問かもしれませんが、野村さんご自身は、神って何だと思いますか?

野村 神様って何だろうっていうことは自分もずっと考えていて、結論は出ないんだけれど、自分を超えた大きい流れみたいなものなんじゃないでしょうか。人間がコントロールできないような大きな流れやそのエネルギ-のことを本来的に、特に日本人は「神」って総称して呼んでいるんじゃないかと思うんですよ。

ーーなんだかわからないけれど、我々人間には手に負えないものが神?

野村 うん、うん。

ーーそういう思いが小谷の人々の心根には今も息づいている。

野村 自然に寄り添って生きる人たちにはそういう感性を持っているって思います。目に見えないけど確かに感じている。感じざるをえないことがあるんじゃないでしょうか。

ーー山という神を象徴するものがあって、自然の循環、世界ですよね。それを野村さんは1冊の写真集に込めた。それまで撮っていた沖縄や南の島の写真とはちょっと違う、すっと抜けた、その確かな感じ。フェーズが変わった印象があります。

野村 昨年秋に入江泰吉記念奈良市写真美術館でやった写真展を見にきてくれた人に、同じことをすごく言われたんです。「野村の写真は湿った色気というか、カオスな雰囲気だ好きだったのに、スカーッと突き抜けちゃったね」って。残念がっている人もいました。

ーーその反応はわかります(笑)。

野村 いや、でも、『Otari』についてはライフワークが1つ増えたという感じなだけで、これからも沖縄は撮りますからね。ただ、その「フェーズが変わった」っていう感想はすごく嬉しい。そうでありたいと思って撮っていましたから。

「Otari」より

■写真の力を信じている

 

ーー野村さんの写真には生と死が表れている、というようなことをよく言われると思うんですよ。

野村 そうですね。よく言われます。

ーー今回の写真集で、その両者が緩やかにつながったという印象があるんです。ご自身はどう思いますか?

野村 どうなのかな。まだこれからだけど、年齢的にも心境的にも先が見えたっていう感じはリアルにしますよね。終着点にはまだ早いけど。だったら走ろうと、ゴールが見えたからむしろ走ろうって。若い時ってゴールが見えないし、死ぬって言ってもリアルじゃない。老いていくっていうことも全然リアルじゃない。変な話だけど、老いや死をリアルに少しは感じられる歳になって、もっと強く生きようっていう考えになってきた。行動も心も前向きになってきているように思います。

ーー生きるって不確かですよね。不確かなものを写真で切り取っていくことの意味とか意義について考えることはありますか?

野村 一番核心の話ですよね。写真を撮っていく意味。うーん。私が見てきたものや感じていること。出会ってきた人、つまり、私が生きている時間、今を写真として切り取って残している。自分で意識していなくても、撮って、作品として発表して残したものはいずれ何かの作用を持つということを信じているからなんじゃないでしょうか。

ーー写真の力を信じている。

野村 写真が後々どういう力を持つかは、私自身が他の作家の作品を見て感じてきたことですからね。だから、今感じたことを淡々と撮り続けることは必要なのかなと。それと、写真集のような作品にすることは重要だと思います。作品にしないと写真も残らないから。

文/渡邊浩行(モジラフ)

プロフィール

 

野村恵子(のむら・けいこ)
兵庫県神戸市生まれ。1997年の写真展『越南花眼』にて、コニカプラザ「新しい写真家登場」年間グランプリ受賞。1999年、沖縄をテーマとした写真展・写真集『DEEP SOUTH』(リトルモア)により日本写真協会新人賞受賞。2000年、東川賞新人作家賞受賞。2019年、第28回林忠彦賞を受賞。『Bloody Moon』(冬青社)、『Red Water』(アートビートパブリッシャーズ)、『Soul Blue』(Silver books/赤々舎)ほか多数の写真集を発表。

 

 

写真集

『Otari – Pristine Peaks 山霊の庭』
発行元 SUPER LABO
価格 6,264円(税込)
URL:https://www.superlabo.com/catalogue/spl095kn/index.html

 

写真展

■野村恵子写真展 「山霊の庭 Otari – Pristine Peaks」

会期:2019年3月16日〜4月13日
会場:Kanzan Gallery
住所:東京都千代田区東神田1-3-4 KTビル2F
開廊時間 12:00〜19:30(火曜日〜土曜日)
12:00〜17 00(日曜日)
定休日:月曜日
URL:http://kanzan-g.jp/

■第28回林忠彦賞受賞記念写真展

・東京展
会期:2019年4月19日〜4月25日
会場:富士フイルムフォトサロン
住所:東京都港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン フジフイルムスクエア
開廊時間:10:00〜19:00(入館は18:50まで) 年中無休
URL:http://fujifilmsquare.jp/

・周南展
会期:2019年5月11日〜5月19日
会場:周南市美術館
住所:山口県周南市花畠町10-16
開廊時間:9:30〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(月曜が祝日または休日の場合はその翌日)
URL:http://s-bunka.jp/bihaku/

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