ーー戦略的に組み立てているんですね。
野村 そうじゃないと続かないですよ。ただね、現場に入ったら予測不可能なことに巻き込まれて揉まれる。だから、作品を作るのには結構時間がかかるんです。まったく想定どおりにはいかない。とっ散らかるし、予定にないものもいっぱい撮っちゃう。考えも写真も分散して、だから生活も心も大変なことになる(笑)。
■愛する男と子を作り、食べ物を作る生き方。そして、都市生活への違和感
ーー話の冒頭でも触れましたが、野村さんの作品の主要なモチーフの1つに女性があります。写真集の表紙は若い妊婦で、本には他の女性も登場します。彼女たちはどんな人なんでしょう?
野村 表紙の女性は小谷に移住して今は3人の子供を産み育てている人。もう1人の女性は、出身は長野なんだけれど、東京で生活をしてから、いろいろいあって小谷に移り住んできた女性ですね。
ーー「私がここに暮している理由? 愛して家族になろうと決めた男が、この村の人だったこともあるけど、ここでなら家族の顔をちゃんと見ながら、働いて子育てをして、一緒に日々を暮らしていける。自分たちの食べるものを自分たちで作ることはとてもいい。それは私の望む暮らし方だったの。」っていう一文のインパクトが強くて。
野村 表紙の女性の言葉ですね。
ーーそれを読んで、東京での生活への漠然とした問題意識、違和感のようなものが野村さんの中にもあったんじゃないかと感じました。
野村 すごくありますよ。今もある。
ーー彼女の言葉は、その問いに対する正しい解になっていると思いました。
野村 そう思います。人それぞれの正しさがあるから、それだけを正しいと言い切ることはできないけれど、そういう生活は素敵だと思います。
ーーしっかりした足場のある生活をシンプルに言葉で表すと、彼女の発言のようになるんじゃないかって。
野村 そうですよね。だって、東京での暮らしって脆いですよね。わたしも東京ではふわふわした生活をしてますし。
ーー脆いと思いますよ。足場があるようでない。根無し草みたいなものだから。
野村 都市での生活って虚無感があるじゃないですか。ぼーっとしてたら今生きてるのか死んでるのかもわからない。誰も自分のことを認識しないし、部屋で1人で一日中、パソコンを眺めてコンビニのお弁当とか食べていたら四季感もわからない。それでいろいろ考えて、生きることをもう少しリアルに見つめようと思ったんですね。本当にリアルな生き方をしている人のそばにいたら、食べることに関しても、もう少しリアルなものが見えてくるんじゃないかって。体に少しだけ負荷のあるフィールドワークを選んだ理由もそこにあります。
ーー都会はお金さえあればなんとなく生きていけるインフラができていますものね。コンビニで「あたためますか?」「はい」だけでやり過ごせる、生きている実感のない日々。
野村 小谷に行ったらそもそも体を使う場所はあってもお金を使う場所がないですから。山ではのどが渇いたら沢に行くし、村では店にも行けないのでありがたく頂いたものしか食べられないし。都会はお金さえあればなんとでもなるけど。
ーー同じような違和感を漠然と抱いている都市生活者は少なからずいると思うんです。少しずつ増えている気がする。
野村 実際にそういう思いを抱いて小谷に移住して暮らしている人たちも多いですよ。一度都市での生活を経験したあとに、やっぱり、畑を耕したり山と暮らしたり、地元の人と触れ合って伝統的な生活の智恵や術を覚えたり、仲間と自然の中で暮らしていきたいって、強く意識を持って腹をくくって来ている人たちと出会いましたね。