祖母を狂わせた『でる家』ー 本当にあった超怖い話・川奈まり子の実話怪談!
やがて祖母は、奇妙な仕草をしはじめた。
「お出掛けの前にお風呂に入らなきゃ。あら、ちょうどいい湯加減だわ。ああ、気持ちいい!」
ベッドに座ったまま、湯浴みをするような動作をしている。掌で湯をすくって肩にかけ、体をこすって……。
「あったかいよぉ。あんたも入りなよ」と母に一緒に入るように勧めた。
母は祖母に調子を合わせて、「私は先にお風呂をいただきましたから、おばあちゃんだけでゆっくり浸かってください」と答えた。
「そうなの? ありがとうね」と祖母は笑顔を返して、尚も〝入浴〟を続けた。
気づけば、弟が病室の隅で固まっていた。さっきからずっとそこにいたのだ。
聡さんと弟がいることを祖母は認識していなかった。
そのうち、祖母は〝手鏡〟を顔の前に掲げて〝櫛〟で髪を整えようとしはじめた。
無論、手鏡も櫛も現実には存在しない。
好きなようにやらせておくしかない。聡さんが切ない気持ちでそう思っていたところ、祖母が今度は、しきりと手鏡を動かしては覗き込む動きを繰り返しだした。
そして「変だねぇ」と眉間に皺を寄せて考え込む表情を見せると、こんなことを呟いた。
「この鏡、私の顔が映らないのよ。なんでだろうねぇ。代わりに、知らない男の子がずっと映ってるの。どこの子かしら?」
これを聞いた聡さんはゾクリと背筋が冷え、咄嗟に大声で、「そんな子いないよ! おばあちゃん」と叫んでしまった。
だが、祖母の耳には届かなかった。聡さんの声が聞こえなかったかのように、今度は、「あらあら、この子は寒いんだね。私の蒲団に入ってきたがってるよ」と言った。
「おお! 冷たっ! 体が冷えてるねぇ。真っ裸じゃないか。それじゃあ冷たくもなるよね。もっと中までお入り」
と、蒲団の端を持ち上げて〝男の子〟を中に迎え入れている。そうやって出来た掛け蒲団とシーツの間の隙間が、ちょうど3、4歳の子どもが潜り込めるぐらいの大きさで、不気味なことこの上ない。
聡さんは母の方をを見やった。祖母を止めてくれないかと期待したのだ。しかし母も呆気にとられた面持ちである。
しかしながら、祖母が次に、
「……あらあら、私にぴったり貼りついて! よっぽど寒いんだね。服を着せなきゃいけないね。何かないかしら?」
と、言いながらベッドから下りようとすると、母はついに我に返った。
「そんな子いません! おばあちゃん、そんな子いませんから! 体に障るから、横になって休んでください! お願いしますよ」
こう言って、祖母をベッドに寝かせておこうとした。
祖母は心外そうにして、母に怒った。
「なんで意地悪するの? ああ! ほら! あんたが邪魔するから、あの子が出て行っちゃったじゃないか! かわいそうに!」
「……ここにいる男の子といったら、おばあちゃんの孫たちだけですよ。2人とも、さっきから部屋の隅で、おばあちゃんと話したくて待っているのよ」
祖母は束の間、ぼんやりした視線を聡さんと弟に投げかけたが、すぐに鈍い動作で横たわって目を瞑ってしまった。
「もう私は寝るから、あんたたちは、あっちに行っておくれ! おやすみなさい」
その後、間もなく、母は、「私は残って後片づけをしていくから」と言って、聡さんと弟を先に家に帰らせた。
2人が病室を立ち去るときにはもう、祖母は寝息を立てて眠っていた。
弟と連れだってとぼとぼと帰ると、家の中から電話のベルが聞こえていた。
大急ぎで玄関を開け、電話の方に走っていって受話器を取ると、母が、
「おばあちゃんが亡くなったよ! あんたたちが帰った直後に苦しみ出して、口から血をツーッと垂らしたかと思ったら、事切れてしまったの!」
と、悲鳴じみた声で聡さんに告げた。
その声は彼のそばにいた弟にも伝わった。
弟は、声をあげて泣きだした。
「おばあちゃんが死んじゃった! 最期に全然お話しできなかった! こんなのヤダよぉ! ウワァン!」
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2024.10.02 20:00心霊祖母を狂わせた『でる家』ー 本当にあった超怖い話・川奈まり子の実話怪談!のページです。怪談、老人、子供、怖い話、家、川奈まり子、情ノ奇譚などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで